アルバニア国旗を掲げる
微妙な問題として国旗の問題がある。コソボで休日やお祭りの際掲げられるのがほとんどアルバニアの国旗なのだ。コソボの人口の92%がアルバニア系なので、心情的にはそうなるのだろう。しかし、モンテネグロ、セルビア、北マケドニア、ギリシャなど周辺諸国にもアルバニア人が多く住む地域がある。これらを全て合わせて「大アルバニア」の形成を目指しているのではないか、という懸念が常に周辺諸国にはある。それを知っていると、コソボでコソボ国旗よりもアルバニア国旗の方が圧倒的に多く掲げられることにやや心がさわぐ。
2008年の独立宣言時に採用された上記コソボ国旗は、一般の人々の民家その他に掲げらるのをほとんど見ない。皆アルバニア国旗をかかげる。アルバニア国旗は、オスマン・トルコの支配に抵抗した民族の英雄、スカンデルベグ(中世アルバニアの君主、1405~1468年)が考案し使っていた紋章だ。「スカンデルベグの鷲」と言われ、アルバニア人には思い入れが深い。国旗とだけは言えず、「民族の旗」と言うべきなのかも知れない。
しかし、公式のコソボ国旗には明確な思想が示されている。6つの白い星はコソボに住む6つの民族、アルバニア人、セルビア人、トルコ人、ロマ、ゴーラ人、ボシュニャク人を表す。多民族の国として存在していることを示す。アルバニア人だけの国ではないのだぞ、ということだ。施政下にあった国際連合コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)への配慮、周辺諸国をはじめ国際社会に理解を得るための配慮もあったと思われる。しかし、残念ながら人気がないようだ。
大アルバニア主義は誇張か
2007年の国際連合開発計画(UNDP)の調査によると、コソボのアルバニア人のうちアルバニアとの統一が望ましいと考える人は2.5%に過ぎなかった。大アルバニア主義は誇張されている可能性もある。アルバニアはコソボより経済が遅れていて、連合してもメリットがないという意見もある。しかし、例えば2001年2月、アルバニア系が人口の3割近くを占めるマケドニアでアルバニア系の民族解放軍(NLA)が武装蜂起し、これにコソボの武装勢力も介入してマケドニア軍との戦闘が起こっている。2014年10月にはセルビア対アルバニアのサッカー試合中に、「大アルバニア主義」の旗を掲げたドローンが飛来して乱闘が起こった。
コソボ内少数民族のセルビア人への適切な対応を含め、今後この国がその歴史に相応しい尊厳ある方向に進んでいくのを望む。
岡部一明
『地球号の危機ニュースレター』
No.516(2023年6月号)