早川 幸子
前回は、田舎暮らしでの草刈りの重要性について考えました。
葛やセイタカアワダチソウ、タンポポ、メヒシバ、エノコログサ……。いわゆる雑草と呼ばれる草を放っておくと、所かまわずはびこって人の暮らしを脅かすものになります。定期的に草を刈って管理することは、農作業の効率を図るだけではなく、防犯や交通安全の上でも重要で、里山の景観を守ることにもつながっています。
その一方で、草には雨水を受け止めたり、昆虫のすみかとなったり、自然環境を守る役割も果たしています。長雨に見舞われたこの夏、私は草の持つ力を考え直すことになりました。
八郷の連続降水日数は31日間
2026年8月中旬から9月にかけて、関東地方では大雨や台風、長雨による被害が相次ぎました。東京都心では、連続降水日数37日という観測史上初の長雨を記録。私が暮らしている茨城県石岡市でも、9月1日から10月1日までの31日間、連続で雨が降り続き、農作物の生育に大きな影響を与えました(気象庁土浦観測所の記録より)。
通常なら9月は稲刈りの最盛期で、コンバインや軽トラが走り回る時期です。ところが、雨続きで水の抜けない田んぼには大型機械が入れないため、あちこちに刈り遅れとなった田んぼが目につきました。刈り取る時期を逸した稲は、米にひびが入ったり、茶色く変色したりして、品質に影響を与えます。また、熟して重たくなった穂先が水について発芽してしまったため、泣く泣く刈り取りを諦めたであろう田んぼも点在しています。
そして、今回の長雨は私の小さな畑にも少なからぬ影響を与えました。
私の畑は、杉の植えられた小高い丘の麓にあり、さらに前を走る道路は1メートルほど下がっています。引っ越し1年目の昨年夏は雨がほとんど降らず、8月の降水量(土浦観測所、以下同)はわずか38mm。9月に入ってようやく少し雨が降りましたが、それでも降水量は86mmでした。反対に水不足が心配され、雨の影響を受けることはありませんでした。
ところが、今年は打って変わった長雨で、8月の降水量は159.5mm、9月は470mmに達しました。降った雨は、いったん裏山の杉林や畑が受け止めてくれますが、激しい雨が降るとその全てを吸収することはできません。幸いにして土砂崩れは起きませんでしたが、裏山から流れてくる雨水の勢いもあり、畑の土がずいぶんと道路に落ちてしまいました。
裏山の斜面を見てみると、草がなく、地表がむき出しになっている場所では、土の塊が崩れ落ちているところがありました。反対に、かなりの量の雨が降ったのに、草の生えているところからは土は落ちていませんでした。

長雨で崩れた斜面 © 早川幸子

斜面から落ちてきた土の塊 © 早川幸子
また、畑の様子も同様で、草がある場所とない場所では大きな違いが見られました。作物を植えるために草の根を抜き取っているところは、激しい雨が降ると大きな水たまりになりますが、晴れるとあっという間に地表が乾いて強い照り返しを起こします。
一方、草を刈らずに残していた場所は水たまりにはならず、晴れてカンカン照りになっても地表は湿っています。また、刈った草をそのまま置いておいた場所も地表がむき出しになっていないので、水たまりはできず、晴れても土には湿り気があります。連日の雨で9月に入ってからは、畑に入ることもままならず、ほとんど草刈りができなかったため、腰丈ほどに草が伸びてしまったところもありました。でも、その草が激しい雨から地表を守ってくれていたのです。畑から道路に多少の土は落ちてしまったものの、裏山の土砂崩れや畑の土手崩れが起きなかったのは、草の力も影響していたのかもしれません。

草がない場所は晴れると地表はカラカラに © 早川幸子

同じ畑でも草をかぶせておいたところは、晴天でも湿り気がある © 早川幸子
実際、1時間当たりの雨水の浸透量の目安は、常緑落葉混交林が220mm、常緑樹林が144mm、前庭植栽が102mm、芝地・草地が22mm。草葉があり、根の張りが強いところほど、雨水を受け止める力が強いと報告されています。
一方、アスファルトには雨水を浸透させる力はほとんどありません。排水性や透水性を高めるアスファルトの研究も進んでいますが、日本全国の道路を高機能舗装に変えるにはかなりの時間を要するでしょう。
ここ数年、毎年のように日本中のどこかで大雨被害が出ていますが、今年8月13日夕方から14日未明にかけて起こった千葉豪雨では、都市空間の脆さを目の当たりにすることになりました。千葉県上空で発生した線状降水帯による記録的な大雨が内水氾濫を引き起こし、市街地はあっという間に冠水しました。予想された排水機能を大幅に超える雨量となったことが大きな要因ですが、アスファルトに覆われた道路が雨水を受け止められなかったことも被害拡大の一因でしょう。
草のない畑はよい畑?
これまでの私は、草のないのがよい畑だと思っていました。東京にいた時に野菜作りのいろはを教えてもらった講座でも、畑の雑草を丁寧に抜くことが大切だと教えられました。
確かに、畑で大型機械を使って、一つの種類の野菜を大量に作るためには、木の根や草などを取り除き、できるだけ平らに整えておく必要があります。人が種を撒いたり、苗を植えたり、収穫したりする時も、草が生えていない方が作業効率は上がります。
ただし、畑の治水力を引き上げるという面から見ると、草は全くの邪魔ものというわけでもないのです。草には、雨水の勢いを和らげる緩衝作用があります。草がクッションとなって雨水を受け止めるため、激しい雨が降っても直接地表に叩きつけられることはありません。草の根が張れば土留めになって、土の流出を防ぐこともできますし、雨水が土壌に浸透しやすくなって土の保水性も高ります。また、草や木は根から吸収した水を葉を通して放出する働きもあります。
さらに、地面を覆う草は直射日光や乾燥から土を守り、適度な湿度を保つため、昆虫や微生物などのすみかとなり、自然環境の保護にも役立ちます。一見、虫は作物を荒らす悪者に思えますが、害虫を食べてくれる蜘蛛などはありがたい存在です。
地球温暖化の影響によって豪雨災害が急増している今、素人の私が野菜を作っていくためには、ますます雨との上手な付き合い方が求められるようになるでしょう。この9月の長雨で草の力を実感した私は、草との関係を見直して、草の力も借りながら畑作りをしていきたいと思うようになっています。
もちろん、草がボーボーの荒れた畑では種撒きもできないし、苗の定植も大変です。景観も悪く、近隣住民との関係性にも影響を及ぼします。でも、水害を防ぐ上では、畑から全ての草をなくすのがいいわけでもなさそうです。
幸い、八郷には自然農を実践している農家の方々がたくさんいます。先輩たちの畑からヒントをもらいながら、必要に応じて草を刈ったり残したりして、草を利用して雨水とも上手に付き合いながら、力強い畑を作る方法を模索しているところです。
例えば、畑の一角に落葉樹を植えれば、根が張って水害時にも土の流出を減らせるかもしれません。落ち葉は堆肥になり、木陰ができれば山椒やミョウガなど日陰を好むものも育てられるようになるでしょう。さらには、レンゲや菜の花、ヒマワリなどの花を植えて緑肥にし、草や木の力を借りながら、10年かけて雨に強い畑を作っていきたいと思っています。
それが、この長雨の中で考えた私の目標です。
参考文献:都市緑化技術研究部会「研究集会報告」緑地の保水能とグリーンインフラ
早川 幸子
『地球号の危機ニュースレター』
No.548(2026年10月号)

