「地球号の危機ニュースレター」541号(2026年3月号)を発行しました。

【配信映画】『プラスチック・デトックス』

※この画像はAIが作成したイメージ画像です。紹介している映画とは直接関係はありません。

 大竹財団では社会問題を扱ったドキュメンタリー映画の上映会を毎月開催しています。上映作品を探すためにも映画館や上映会によく出かけています。ただ良い作品を見つけても残念ながら諸事情で上映できないこともありますし、ネット配信映画などは上映会ができない場合がほとんどで、良作がたくさんあるのに上映できなくて本当に残念です。ということでこのWebでネット配信映画に限定して映画紹介をさせていただきたい。記念すべき1作目は最近配信が始まった『プラスチック・デトックス』(2026年3月16日からNETFLIXで配信)を紹介します。

 日本のみならず世界中で増加している「不妊」。子どもが欲しいと思っていても授からず不妊治療をする人は少なくありません。統計によれば、不妊について心配したことがある夫婦の割合は39.2%、実際に不妊の検査または治療経験がある夫婦の割合は22.7%となっています(国立社会保障・人口問題研究所による2021年社会保障・人口問題基本調査 <結婚と出産に関する全国調査> )。少子化対策の一環としても2022年4月から不妊治療が公的医療保険の適用対象になりました。

 不妊の一番の原因は晩婚化・晩産化による年齢的な要因(精子・卵子の質の低下)です。ストレスや生活習慣の乱れもありますし、他にも社会的なものや環境要因として環境ホルモン(内分泌撹乱物質)、スマートフォンやPCなどの熱や電磁波といった外的な影響があるとされています。

 映画『プラスチック・デトックス』は、体内に摂取されてしまうプラスチックに焦点をあて、アメリカで不妊に悩む6組のカップルに90日間プラスチックへの接触を軽減する実験に参加してもらうドキュメンタリーです。

 映画で登場するのは、世界的な出生率の低下の原因がプラスチックによく使われる化学物質にあるのではないかと主張する環境疫学と生殖疫学が専門のシャナ・スワン博士。化学物質が人の身体に及ぼす影響を考える方法として、妊娠に問題を抱えているカップルに注目した。スワン博士が実験したかったのは、プラスチックに含まれる化学物質にさらされる機会を減らせば生殖機能はどう変わるのかということ。被験者の6組のカップルは子どもが授かるためにこれまでいろんな不妊治療または妊活を試みてきたが残念ながら妊娠には至っていません。身の回りの化学物質を除いて、あきらかな不妊の原因となるものも見当たりませんでした。

 誤解してほしくないのがこれは決してプラスチックが不妊の真犯人かどうかを決める映画ではありません。どの程度プラスチックを生活から遠ざけるかはカップルごとにまちまちですし、そもそもサンプル数として6組は少なすぎます。男性の体内で新しい精子が生成されるまでには70日かかるそうなので、実験の期間が90日間というのもちょっと短い気がします。科学的な検証とは言えませんが、それでもプラスチックを日常から遠ざけること自体はかなりハードルが高いことですし、試みとしてとても興味深い実験です。

 映画の冒頭からこんなメッセージが出てきます。

マイクロプラスチックに執着してるのって私だけ?

”マイクロプラスチック” 全てに入ってる

マイクロプラスチック 何?

マイクロプラスチックは体中に入ってる

タマにも入ってるぞ どういうことだよ? 睾丸にもある タマに?

最悪の気分 ”私はマイクロプラスチック”

ありとあらゆる物に入ってる 歯を磨けばプラを飲み込むし

ガムもプラスチック ポリエステル製の服もプラスチックだ

人体への影響もわからない

プラスチックからは逃れられない あなたも俺もみんなも

脳に大量のプラスチックがたまってる 体中で見つかってる

血液 肺 心臓 動脈 胃腸 肝臓 腎臓 母乳まで

マイクロプラスチックだらけ じゃあどうすればいい?

私の主治医はペットボトルの水は飲まない 大腸がんになる恐れがあるから

大量の化学物質も溶出してる 腹が立ったわ

有害物質の中にはオビソゲンが入ってる 肥満誘発物質よ

技術が進化するほどプラスチックも増える

男性のペニスや睾丸は縮小し精子の数が減って流産も増えてる

どうかしてるし警鐘が必要よ 人類はどうすればいい?

解決策はある? まずは家の中を見ましょう

 実験前にカップルには尿検査をしてもらい体内の化学物質の蓄積量の測定。精子数や活動量についても検査した。スワン博士は、被験者カップルの各家庭を訪問し家庭内のプラスチック製品を指摘してまわり、金属やガラス、陶器、竹製品への代替案を提示。日常生活でプラスチックのなかでも環境ホルモン(内分泌撹乱物質)の主要な2つのグループであるフタル酸エステルとビスフェノール類(BPAなど)からできるだけ接触を減らすための指導が行われました。

 最近では魚介類などの食べ物のなかに含まれていくマイクロプラスチックだけでなく、飲み水や空気(香料など)、あるいは合成繊維や合成染料による衣服、化粧品や日焼け止め、シャンプーといった皮膚から吸収される可能性のあるナノプラスチックも健康への影響が心配されています。少量なら大丈夫という気もしますが、ホルモン物質なので微量でも決定的なダメージを与えかねません。

 ネタバレになってしまうため実験結果などは書けませんが、鑑賞後に私が感じたことはプラスチックへの絶望的な危機感です。このままじゃヤバい。だってあれもこれもプラスチック製。身の回りからプラスチックを排除することが難しすぎる。減らすことはできるがとにかく多すぎてどこから手をつけてよいのか途方に暮れてしまいそう。

 体内にプラスチックを取り込むことですぐに病気なったり死因になることはないかもしれませんが徐々に体を蝕んでいく可能性は十分に考えられます。自律神経系への影響やのちのちガンや様々な病気になるどうかはまだわからないけれど、原因がわかってからでは遅すぎます。水俣病をはじめこれまで多くの悲劇を生んだ公害問題に学ばないといけません。

 そして個々人の不妊や健康の問題だけでなく、もし人類として子孫を残せなくなったとしたら。人類だけでなく動植物も、いや地球そのものを汚染し持続可能でなくなったとしたら。

 映画では生活上でのプラスチック暴露を従来より極力減らすことに主眼が置かれているため、食べものになる食材についてはほとんど言及されていません。食材となる動植物にプラスチックがたっぷり取り込まれてしまっていた場合、それをどう調理して食べたらいいかまではさすがのスワン博士も教えてくれません。やはり個人で暴露を避けるにも限界があるし、このままのプラスチックの使い方を続ければいつかこの世界は破綻してしまうでしょう。

 わたしたちの便利な生活を支えるプラスチックが時間をかけてゆっくりと地球に住む生物を死滅させていっているのかもしれません。できるだけ早く社会全体でプラスチック製品を減らしていくしかありません。もはやリサイクルやリデュースなどでどうにかできる話ではありません。将来子どもが生まれない世界なんてSF映画でしか観たくないですし、ホルムズ海峡が封鎖されて原油危機の今、むしろ少しずつでも減らしていくチャンスなのではないでしょうか。

 こんな現実は知らなきゃよかったとお叱りを受けるかもしれませんが、少なくとも被験者たちは絶望よりもむしろ希望を見出していたように感じました。不妊に悩む人たちのみならずみんなでこのプラスチック問題を考えるためにもぜひ観てほしい映画です。おすすめします。

プラスチック・デトックス

原題:The Plastic Detox/監督:ルイ・シホヨス ジョシュ・マーフィ/製作:ローラ・ワグナー ジョシュ・マーフィ/2026年/92分/アメリカ/配信:Netflix

 ちなみに、実験に参加したカップルたちが映画の後どうしているか(Where Are The Plastic Detox Couples Now?)について、NETFLIXの公式ガイドサイト「TUDUM(トゥドゥム)」に掲載されていました。先に読むと完全にネタバレになってしまうのでこちらは映画を鑑賞した後に読んでください。

Where Are The Plastic Detox Couples Now?

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