「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

能登地震:ボランティア初動の課題

テレビで映像が何度も流れた被害が大きかった場所。何とか車が通れるまで復旧されていた © 岡部一明

テレビで映像が何度も流れた被害が大きかった場所。何とか車が通れるまで復旧されていた © 岡部一明

自転車の活用は?

 能登には、小松空港を起点に金沢を経て半島を一周する海沿い自転車道「いしかわ里海めぐりルート」(全長373キロ)が整備されている。奥能登では損傷が大きいだろうが、少なくともこの辺は走れる。自転車野郎たちの出番ではないか。リヤカーでも付けて物資も運べるし、被災地ボランティアの往復に使ってもいい。

 志賀町境から羽咋市内まで帰り6キロ、この自転車道を歩いたが、自転車は3台しか通らなかった。有効活用されているように思えない。災害時の自転車活用が今後の課題だ。阪神大震災の際は大活躍している。若き田中康夫の『神戸震災日記』(新潮文庫)は、大阪を拠点に原付バイクで神戸に物資を配りまわった活動記録だ。

 ただ、この日は晴れていたが、冬の能登は雪や雨で天候が厳しい。自転車の活用にはこれが障害になるだろう。

羽咋市滝町付近の自転車道 © 岡部一明
羽咋市滝町付近の自転車道 © 岡部一明

液状化被害の内灘町

 18、19日は金沢市内に拠点に、周辺を歩いた。輪島、珠洲と同じくらいの激しい被害を受けた内灘町は、金沢に近く、その都市圏郊外部にある。アクセスにはまったく問題なく、これを同等に「交通渋滞」「行くな、迷惑になる」と論じるのは無謀だ。近郊鉄道やバスも通っている。

金沢駅東口ドーム下の北陸鉄道駅から内灘行きの電車に乗り、そこから白帆台行きのバスに乗ると終点が白帆台のニュータウンだ(写真)。真新しい一戸建て住宅が並び、高台にあるためか地震の影響はほとんど見られない © 岡部一明
金沢駅東口ドーム下の北陸鉄道駅から内灘行きの電車に乗り、そこから白帆台行きのバスに乗ると終点が白帆台のニュータウンだ(写真)。真新しい一戸建て住宅が並び、高台にあるためか地震の影響はほとんど見られない © 岡部一明
その高台東の低地に液状化の被害が集中していた。霞んでよく見えないが、田畑の彼方に、埋め立てられて狭くなった河北潟がある © 岡部一明
その高台東の低地に液状化の被害が集中していた。霞んでよく見えないが、田畑の彼方に、埋め立てられて狭くなった河北潟がある © 岡部一明
内灘町西荒屋地区の液状化被害 © 岡部一明
内灘町西荒屋地区の液状化被害 © 岡部一明

「万難を排して来る」べきだった

私も能登に行っていいかどうか、かなり迷った。しかし、防災学者・室崎益輝氏の提言を読んで背中を突かれた(「『初動に人災』『阪神の教訓ゼロ』能登入りした防災学者の告白」、朝日新聞デジタル、2024年1月14日)。室崎氏は自身、阪神淡路大地震の被災者だ。「防災研究の第一人者で、石川県の災害危機管理アドバイザーも務めてきた神戸大名誉教授」。各方面での初動の遅れを指摘し、ボランティアの動きについても次のように指摘する。

「自衛隊、警察、消防の邪魔になるからと、民間の支援者やボランティアが駆けつけることを制限しました。でも、初動から公の活動だけではダメで、民の活動も必要でした。医療看護や保健衛生だけでなく、避難所のサポートや住宅再建の相談などに専門のボランティアの力が必要でした。/苦しんでいる被災者を目の前にして、「道路が渋滞するから控えて」ではなく、「公の活動を補完するために万難を排して来て下さい」と言うべきでした。」

氏は、防災専門家である自身の対応にも厳しい目を向けている。ボランティア活動に関しては次のように言う。

「地理的な要因や交通渋滞があるので、「ボランティアはまだ行かないで」と最初から強く国も県も自治体も伝えました。一部の専門性の高いボランティアも同じことをSNSなどで伝え、拡散した。/この影響で、私のような研究者や多くのボランティアでさえ、被災地に入ることをためらった。」

「行くのをためらった状態を作ったことは大きな間違いだったと思います。そして、先に入った一部のボランティアまでが、行政と同じように「来ないで」と伝えたのにも、大きなショックを受けました。/「ボランティア元年」と言われた阪神・淡路大震災を考えると、今回の発災では、ボランティア自身の線引きや権威主義化に違和感を覚えました。」

ネット上のボランティア迷惑論

 確かに、輪島市や珠洲市の甚大被害地の映像を見て、また七尾以北の交通の困難を見て「ボランティアは無理」「迷惑」となるのはわかる。しかし、それはテレビを見ての印象的な判断であり、一面的だ。周辺部も含めて実際の状況を総合的・詳細に調べ、可能な支援の方法を考える。ベンチャービスネス的な革新性・創意性が求められる(そもそもNPOとは起業ベンチャー型公共だ)。

「やがて時期が来たら」ではない。今、今時期でない所と時期なった所がある。「将来的には観光で地元経済にカネを落とす支援も」なのではない。今すでに金沢以南、富山県などはその時期に来ている。金沢から七尾にかけてはその中間地域か。

 客が激減した金沢市内の料理店主人が、「どんどん来て」と言えなくて、「まだ被害が大きい地域があるのに、こんなことは言いにくいですが…」と口ごもっているのを、TVのインタビューで見た。周辺地域の人たちには、複雑な気持ちがあるだろう。

 お前はネット議論を見すぎるからボランティア迷惑論が気になるのだ、との指摘も頂いた。しかし、例えばヤフーニュースはNHKや主要紙サイトを越えて日本で最もアクセスの多いニュースポータル・サイトだ。そのページビューの1~2割はコメント欄(通称「ヤフコメ)という。まじめなニュースと連動しているぶん、一般の人も見る機会が多い。そこでの迷惑論蔓延は、民の役割を探る努力を控えさせ、国民の間に高まるボランティアの気持ちを萎えさせる役割を果たしているように思われる。 ボランティアはどう動くと迷惑になるか慎重かつ厳格に考えるべきだが、それは、どうやれば迷惑にならない支援ができるか、この困難な状況の中で最大限有効な方法を模索するためであることを忘れてはならない。

岡部一明

『地球号の危機ニュースレター』
No.524(2024年2月号)

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