「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

どんぶらこ取材こぼれ話 第66回 珠洲の人びとと地球の響き声〜なお残る原発の新設計画・上関の現在〜

能登半島の突端部から珠洲市高屋町を遠望

能登半島の突端部から珠洲市高屋町を遠望 ©山秋真

 2023年5月5日午後14時42分ころ、日本海に突きでた能登半島で地震が起きました。半島の突端を占める石川県珠洲(すず)市で震度6強を観測するなど、かなり大きく揺れたそう。

 この地方では、2020年から謎の群発地震がつづいています。地下に何らかの液体があって、その影響が原因ではないかと専門家の見解も報じられるなか、2022年6月に震度6弱とそれまでで最大の揺れがあったばかり。

 それから1年を経ずして、さらに大きな地震が発生したわけです。一連の地震で初めて亡くなった方も出てしまいました。被災された方々の心身、被害、さまざまな環境の変化を案じずにはいられません。

 その珠洲市は、2003年まで原発の予定地でした。もし珠洲原発ができていたら、今回はほぼ直下地震となっていたと報じられています。

 地震のたびに原発も心配しなければならない日本ですが、珠洲原発がなくてよかったとしみじみ思うと同時に、計画を押しかえした珠洲の人びとへの感謝の念がくりかえし湧くばかり。実は私の第1作『ためされた地方自治:原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』(2007年、桂書房)は、計画をめぐる珠洲の人びとの声を伝え、その経験を記録したいと願ったものです。

 いっぽう、そうした珠洲の経験は、あまり知られていないようにも感じました。我が身の非力を恥じつつも、あまりにもったいなく、この機会にここでも少しお伝えさせてください。

 能登半島の日本海側を「外浦(そとうら)」、富山湾側を「内浦(うちうら)」と珠洲では呼びます。珠洲市内でもまさに半島の先端部、外浦に位置する高屋(たかや)町に関西電力が、内浦にある寺家(じけ)地区に中部電力が、それぞれ原発をつくろうとしていました。それに調整役をになう北陸電力を加えた電力3社が、珠洲の原発計画の主体でした。

 原発をつくる際は全戸移転とされた高屋町は、約70戸と小さな集落です。海の近くまで山がせまり、海とのあいだの狭い土地に家や田畑をつくって、人びとは暮らしています。沖によい漁場があるものの、冬は荒波で漁にでられないことも多いのが悩み。1966年に半島の周遊道路ができるまで、金沢から輪島を経て半島の先端まで走るときの、行き止まりだったそうです。

 当初の計画では、高屋町の西側地区が予定地とされました。その後、なんだかんだ理由をつけて東側地区へと変更されたのですが、それは、西側地区の地下に大河が流れていたからだった、と地元の方に伺いました。

 その方も最近になって知ったそうです。事業者は、地下の大河によって予定地の位置をズラしながら、その存在は伏せたまま、原発をつくろうとしていたのです。

 原発計画をめぐって起きた、まやかしや、だまくらかしは、先述した拙著でも詳述しました。別の誰かが理不尽な開発計画に脅かされたとき、参照してもらえたら少しは役立つかもしれない、と思ったからです。とはいえ、計画の凍結から20年がすぎて尚あらたに浮き彫りになる事業者の姿に、しばし言葉をつげません。

 それでも珠洲の人びとが粘りづよく取り組み、計画を押しもどしたお陰で、原発直下地震はなんとか回避されたのだと思うと、やはり考えさせられます。

 その過程では、数々の選挙はもちろん、予定地に共有地をつくる運動や、市庁舎や予定地での座りこみなど非暴力の直接行動もありました。選挙の形骸化への危機感から、裁判で選挙無効を確認する取り組みもあり、投票用紙の偽造疑惑をめぐる応酬や、すべての投票の確認まで行われています。  そのようにして最高裁判所で無効が確定した1993年の珠洲市長選挙は、ふりかえれば、直前に能登半島沖地震がありました。当時、珠洲市内で新聞折り込みされたチラシを少しご紹介しましょう。

©️山秋真
©️山秋真

 この5月5日の能登地方を震源とする地震からこちら、各地で地震が続く日本列島に、いまだに原発の新設やら再稼働やらの話が絶えません。自分たちの足下、すなわち地球の声を聞くこと、未来を見据えて考えて判断し、それを政治へ反映させていくこと。その不断の努力の大切さを、今また初心にかえって胸に刻みなおしてみませんか。  原発の新設計画をめぐって事業者が地元の住民団体「上関原発を建てさせない祝島島民の会」を訴えた裁判は、6月8日(木)午前10時30分から山口地方裁判所岩国支部で、第3回となる口頭弁論が行われる予定です。午後13時からは岩国市民文化会館で、裁判の報告集会も予定されています。お近くの方、その時期その方面でご予定ある方は、どうぞ足をお運びください。詳しくは「祝島島民の会の裁判を支援する会」をご参照ください。

山秋 真

『地球号の危機ニュースレター』
No.516(2023年6月号)