【助成金事業報告】
福島第一原発事故から14年 ― シンポジウム開催と冊子制作
報告: 佐藤 万優子
国際環境NGO FoE Japan
2025年3月1日(土)、法政大学にてシンポジウム「原発事故から14年―福島と能登から考えるエネルギーの未来」を開催した。
企画背景
東日本大震災、東京電力福島第一原発事故から14年の月日が経った現在でもなお、事故の影響がなくなったわけではなく、避難生活を続けている人々も多くいる。住宅提供などの公的支援の打ち切りによって避難先や帰還先で生活難の中にいる人々がいる。昨年1月1日に石川県の能登半島で発生した地震は、原子力防災について改めて考える機会を与えてくれた。地震により、家屋の倒壊や道路の寸断が生じ、地震や津波、原発事故による複合災害において、住民が避難も屋内退避もできない状況になりうること、すなわち、現在の原子力防災や避難計画の破綻を改めて私たちにつきつけた。自然災害は今後ますます激甚化することが予想され、原発を利用し続けることによりもたらされるリスクが高まりを見せている。しかし、なおも第七次エネルギー基本計画には、公的リソースを用いた「原発新増設」を推進するような文言が追加された。このような政策が進められようとされている中、改めて福島第一原発事故、能登半島地震における原発について考える機会とするべくシンポジウムの開催に至った。
当日の内容
シンポジウムは、能登半島地震と原発に関する映像の上映と会場にゲスト登壇者2名を迎えた講演、全国各地7名によるオンラインリレートーク、会場とオンライン登壇者5名によるパネルディスカッションの三部構成で行われた。
冒頭、法政大学国際文化学部の松本悟教授より挨拶があり開催意義と福島原発の建設経緯についての言及があった。第一部では初めに、「原子力規制を監視する会」とFoE Japanが昨年11月に能登を訪問し制作した「能登半島地震と原発」の映像を上映した。かつて計画されていた珠洲原発の建設予定地では、能登半島地震により海岸で2メートルほどの隆起が確認されている。地域住民の力強い反対運動が長年展開され、2003年に電力会社が事実上の撤退を表明するに至ったが、その後長らく原発についての話題はタブー化されていた。福島での原発事故を受け、珠洲原発の推進派の人々が受けた衝撃は相当なものであった。
上映後は、11月の訪問の際、奥能登を案内してくださった珠洲市在住の北野進氏による能登半島地震と志賀原発に関する講演があった。志賀町では震度7の揺れが観測されたが、志賀原発自体は震度5強の揺れで、幸運にも隆起、短周期地震を免れたことにより事故が起きずに済んだことや、原発近くに多くの活断層があり今後も事故が起きる可能性が高いことを指摘した。また、政府は能登半島地震の被害を過小評価していること、原発事故の避難計画は様々な条件が破綻しているため、奥能登の集落は孤立し、被ばくを強いられる可能性があることを話した。
その後、原発事故により福島県浪江町から兵庫県に避難をされ、現在も生活を続ける菅野みずえ氏が登壇した。当時、原発事故で何が起きたのか政府から迅速な説明はなく、避難生活を送りながら多くの人々が被ばくをし続けてしまったことについて語られた。国も県も原発事故の責任を電力会社に追求せず、「福島事故」と呼び福島の中で終結させようと政策を打ち出しているが、避難を余儀なくされた人々がその苦しさから新しい生活を始めることも困難であること、復興予算により進められている「福島イノベーション・コースト構想」※1によって、もとのコミュニティからかけ離れた先端技術の研究が推進されていること、これらの研究は軍事にも結びつく可能性があることについて話された。
※1 「福島イノベーション・コースト構想」とは、「2011年の東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業回復のために、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト」で、廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関係、航空宇宙の6重点分野により構成される。https://www.fipo.or.jp/framework#anc01
第二部は、オンラインで原発や関連施設近くに住む7道県の方々の活動や思いを伺った。以下、各自の氏名と所属、主要な論点について箇条書きで簡単に記述する。

リレートークの様子(写真は山口県上関町議会議員の清水氏) ©️ FoE Japan
・北海道から「泊原発を再稼働させない・核ゴミを持ち込ませない北海道連絡会」代表の市川守弘氏
これまでは断層や津波などの観点から、原子力規制委員会が泊原発の再稼働を見送ってきたが、国が原発推進に向かう中で委員会自身が適合性審査を急いで行い、再稼働を承認しようとしている。避難計画の内容に実効性がないことを具体的に各地で訴えていくことで、問題を追求できるのではないか。また、寿都町や神恵内村で文献調査が進められている核のごみの処分に関しては、原発が立地する地域だけではなく全国の問題であり、適切な住民説明会を行い、国民参加の元、民主的に処分地の建設場所などを決めていく必要がある。
・青森県から「核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会」事務局長の栗橋伸夫氏
青森県むつ市で、新潟県柏崎刈羽原発から運搬される使用済み核燃料の中間貯蔵施設が昨年9月に稼働を開始した。市の財政状況を黒字にするためむつ市は施設の誘致をしたが、下北半島の地域住民は隣接する複数の原発関連施設に囲まれて生活を送っている。共同利用化構想も目論まれている中、中間貯蔵ではなく最終貯蔵施設になるのではないか、軍事リスクの高い地に原発関連施設を建てることの危険性について危惧している。一義的にはふるさとを放射能から守りたい。地方自治体が原発産業に頼り、自分たちの知恵や工夫による創造性がまちづくりの中で失われていくのを見過ごすことはできない。
・宮城県から元女川町議会議員の阿部美紀子氏
昨年10月東北電力が女川原発2号機を再稼働させた。自然災害による原発への影響の不安、福島での原発事故からの教訓、環境にいい発電方法としながら大量の温排水を出す問題、長い間管理が必要な放射性廃棄物を未来世代に押し付けるべきではない、戦争・テロへの不安等の要点をまとめ、原発ゲート前で抗議の申し入れを行った。女川原子力防災避難訓練があったが、前もって人員、移動手段が手配されており、現実的ではなく実効性が低いと感じた。原発から逃げなくてもいい町を作りたい。
・新潟県から「規制庁・規制委員会を監視する新潟の会」の桑原三恵氏
柏崎刈羽原発を巡り、地元の同意が取れず現在は再稼働はしていない。柏崎市と刈羽村の首長や議会も再稼働を了承しており、後は新潟県知事の判断を待つのみであるが、未来世代に関わるこの原発の問題は自ら判断したい。まずは県民投票条例の制定を目指している。15万人の署名を集めるなどの直接請求の運動や議員への働きかけを行っている。
・島根県から「島根原発2号機運転差し止め訴訟」原告団長の芦原康江氏
島根原発2号機は2021年に原子力規制委員会の適合性審査が終了し、昨年12月に再稼働した。志賀原発と同様、多くの活断層に囲まれた地域にあり、いつ大きな地震が発生するのか誰も正確に把握できない。大規模な複合災害を招かないため、原発の再稼働を止めるべく、住民投票条例を求め、署名活動や自治体への要請、議会への陳情、運転差し止めを求めた仮処分の申し立てなど様々な活動に取り組んできた。将来的には原子力発電はなくしていくべきだと明言した島根県知事は、経済産業大臣など国の介入により、再稼働を了承した。自治体、主権者である住民の声は無視された。仮に事故が起きれば、日本海側から南東の方角にある関西に大量の放射性廃棄物が拡散される。原発を止めていきたい。
・山口県から「上関町議会議員、上関原発を建てさせない祝島島民の会」事務局長の清水康博氏
上関町には1982年に原子力発電所の計画が誘致され、未だ施設は建設されていないものの、町民は原発推進、反対で分断された。原発は人間関係に亀裂を生んでしまう。福島第一原発事故以降、原発に頼らない町づくりを目指してきたが、再び地域振興策として中国電力が使用済み核燃料の中間貯蔵施設の調査を提案してきている。町長がすぐに承認し調査が行われている。避難計画がままならず、核のごみの最終的な受け入れ先が決まっていない中、小さな町に2つの原発施設を計画することは非常にリスクが高い。
・佐賀県から「玄海原発プルサーマルと全基を止める裁判の会」代表の石丸初美氏
昨年5月、脇山玄海町長は住民説明会をせず、玄海町の最終処分場文献調査受け入れを表明した。住民説明会が開催されるが、6回開催されるうち各回5名しか住民は参加できず、町民以外の参加は不可という、非常に閉ざされた空間で意思決定が行われる。核のごみは産業廃棄物であるはずなのに、電気の恩恵を受けているだろうと国は国民に責任を押し付けている。有害な放射能を増やさないためには、原発を止めるほかない。
第三部は、第一部で登壇した北野進氏に加え、若い世代として気候危機や再生エネルギーの促進に取り組む足立心愛氏、小出愛菜氏、高田陽平氏、FoE Japanスタッフの松本光の5名で、「エネルギーの民主化を実現するために」をテーマにパネルディスカッションが行われた。以下、各登壇者の発言の要点を箇条書きでまとめる。

パネルディスカッションの様子、左から小出氏、足立氏、北野氏、松本、高田氏 ©️ FoE Japan

©️ FoE Japan
・北野進氏
珠洲原発の反対運動では反対派が少数である期間もあったが、その中でも声をあげていくこと、それをさらに政治の場などで力に繋げていく取り組みも大事であると感じた。原発反対運動の原点には、あらゆる命を大事にするということがある。
・足立心愛氏(Fridays for Future Tokyo)
原発に対する意識が変わったのは、様々な人との対話による積み重ねであり、自分で体験することが大事である。自分が行動すれば何か変えられると実感し、仲間とやっていく楽しさを軸に気候変動の活動を続けている。
・小出愛菜氏(一般社団法人 we Re:Act共同代表)
今回のシンポジウムで原発を止めた成功体験を聞けてよかった。社会運動の成功例をもっと共有していけたらいいだろう。陸前高田市の自治体と共に再生可能エネルギーの事業を行い、地域での循環型社会を作る仕事をしている。自分を通して周りに環境問題を知ってもらう話し方を意識しており、話、経験を共有できる仲間を見つけるといいだろう。
・高田陽平氏(Fridays for Future Fukuoka、オンライン参加)
第一部、第二部を経て、避難計画が被ばくを前提としていることに違和感を覚え、あまりにも人の命を軽んじていると感じた。重要な決定は地元の人ではなく、都市部の直接被害を受けない人が行うという構造が問題である。命を犠牲にして行うエネルギー生産から脱却することが、民主的なエネルギーとして必要である。
最後に、FoE Japan事務局長(当時)の満田夏花より、エネルギーの民主化についての課題について交えた挨拶でシンポジウムは締めくくられた。
当日の感想
東日本大震災、そして東京電力福島第一原発事故が起きた当時、私は小学5年生であった。地震、津波、原発事故と次々と恐ろしく悲しいニュースが流れてきたのを鮮明に覚えている。地震大国である日本において、すでにこれだけ多くの方が苦しみ、高いリスクが指摘されている原子力による発電方法を、日々大量の電力を消費している現状を顧みずに推進してしまうことに、やはり強い危機感を覚えた。「もし自分が原発施設の近くで暮らしていたら…」という想像力や人への思いやりの心、歴史から学ぶ姿勢を、若い世代が率先して受け継いでいく大切さを実感した。
本シンポジウムのウェブサイト
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
(各登壇者資料、シンポジウムのアーカイブ動画含む)
冊子『福島の今とエネルギーの未来2025』
あわせてFoE Japanでは、原発事故の被害や原子力・エネルギー政策についてまとめた「福島の今とエネルギーの未来2025」を発行しました。
廃炉と復興の現在地、除染で生じた汚染土の再生利用、女川原発の再稼働、第7次エネルギー基本計画の問題点といったトピックスや最新情報を、第一線で活動するジャーナリストやNGO・市民運動の担い手が執筆。また、原発の稼働状況、世界の原発の趨勢や、各電源価格の推移、行き場のない核のごみなどについて、図と解説でわかりやすくコンパクトにまとめました。 学習会などにも最適です。
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