「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

(東欧便り)北マケドニア:アレクサンドロス巨大像が意味するもの

photo@岡部一明

歴史に翻弄された人々と民族

 世界には、自らの民族と民族国家の形成に失敗し、大国内の少数民族に甘んじる他なかった人々がたくさんいることを私たちは知っている。

マケドニア人も同じような苦しみを歩んだが、しかし、その辺境の地にかろうじて「北マケドニア共和国」をもつことができた点は異なる。どこで違いが出たのか。歴史の成り行き、それに翻弄されたプロセスがわずかに異なった、としか言えない。

冷戦があり、ユーゴスラビアという社会主義国が生まれ、その連邦に組み込まれた自治共和国としてマケドニア国家の祖が築かれた。

人口の3割を占めるアルバニア系

 冒頭の通り、北マケドニア(総人口200万)では、マケドニア人の人口は54%にすぎず、最多少数民族アルバニア人は約3割に上る。これは少数民族の規模として非常に大きい。例えば、多民族国家として知られるスイスでは、最大多数のドイツ語話者は64%で、最大の少数派フランス語話者は20%だ。カナダで英語を母語とする人は57%、フランス語を母語とるする人は21%。マレーシアではマレー系が69%で、中国系が23%だ。アルバニア人が多いのはアルバニアやコソボに近い西部、北部だが、首都のスコピエも人口の23%がアルバニア系だ(2002年)。

スコピエの旧市街バザールにはアルバニア系が多い
スコピエの旧市街バザールにはアルバニア系が多い photo@岡部一明
何と旧市街入口にアルバニアの国旗(赤地に双頭の鷲)をたなびかせている。このようなものを隣国北マケドニアで大っぴらにたなびかせていいものか。私としては胸がさわぐ
何と旧市街入口にアルバニアの国旗(赤地に双頭の鷲)をたなびかせている。このようなものを隣国北マケドニアで大っぴらにたなびかせていいものか。私としては胸がさわぐ photo@岡部一明

旧市街を歩くのは楽しい

 中世そのままのような旧市街、大勢の人でむせ返るバザール。多様な人々と多様な店、活きのいい人々の声。そこを歩き回るのは楽しい。歩きながら「いったいこの国は何なのだ」という思いに再びとらえられた。いろいろな人々を受け入れて寛容だ。

 中心となる多数派民族もどれだけ正統なのか少し怪しい(そういう国の方が少数派抑圧は少なくなるのかも知れない)。ユーゴスラビア解体時には、他地域であれほど凄惨な民族紛争があったのに、ここではまるで手品のようにそれと無縁で無事独立してしまった。

 隣国で、セルビアからアルバニア人のコソボ国家が独立するのも認めたし、ギリシャから国名「マケドニア」に文句が来れば一応「北マケドニア」に変えた。

 そしてアルバニア人を含め、いろんな人々が暮らす。いいではないか、アレクサンドロス大王、大いに結構。古代の英雄でも何でもいい、それで統合が得られるのなら、どんな人の巨大銅像を建ててシンボルにしてもいい。スコピエの旧市街をさまよってそんな感慨にとらえられていた。

岡部一明

『地球号の危機ニュースレター』
No.517(2023年7月号)

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