「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

(東欧だより)風ふきわたるキシナウ〈モルドバ首都〉

モルドバの首都キシナウには緑が多い(人口70万)© 岡部一明

モルドバの首都キシナウには緑が多い(人口70万)© 岡部一明

ウクライナからも戦争忌避

 ウクライナでは、ロシア侵攻と同日に戒厳令と総動員令を発令。18~60歳の男性を動員対象にするとともに、その出国を禁じた。徴兵回避には厳しい罰則がある。学生、3人以上の子が居る親、障害者を扶養する者など特段の事情がある場合は対象外。(なおこの「総動員」は、18~25歳を対象とした平時の兵役とは別で、通常兵役の場合は前線には送られない決まりだ。そのため2023年5月に通常兵役年齢を「27歳まで」から「25歳まで」に下げてより多くを「総動員」できるようにした。)

 戦前の日本の徴兵制度では20~40歳が対象で、戦争末期の総力戦段階でも19~45歳だったから、ウクライナの総動員はかなりの規模といえる。侵略に立ち向かうウクライナ国民のモチベーションは高いが、実際に戦場に行く若者たちの間には微妙な感情も走ることを、安楽なところでテレビを見ている私たちは云々する資格がないだろう。ロシアからの若者の脱出は大々的かつ好意的に報道されているが、ウクライナからも同じ問題があることはあまり触れらない。その中で例えばこれは貴重な報道。ウクライナからルーマニアに戦争開始後15カ月で動員対象男性6,200人が違法に出国し、90人が国境渡河時の溺死、凍死などで命を落としているとの報告もある。

ウクライナを見渡せる場所(ソロカ)

モルドバ北部の国境地帯ソロカから見たウクライナ領域。ドニエステル川の上流方向を望む。川をはさんでウクライナのチェキノブカ(Tsekinovka)の村が見渡せる(写真右側)© 岡部一明
モルドバ北部の国境地帯ソロカから見たウクライナ領域。ドニエステル川の上流方向を望む。川をはさんでウクライナのチェキノブカ(Tsekinovka)の村が見渡せる(写真右側)© 岡部一明

 2023年7月28日、ウクライナとの国境地帯に出向いた。ウクライナにはモルドバを始め近隣諸国からバスも出ているし、入国禁止になっているわけでもない。しかし、明確な戦場ジャーナリストの覚悟を持って入る以外、私たちは入るべきではない。またロシア系の未承認分離国家トランスニストリアにも入るべきではない。すると、モルドバでウクライナ国境に近づけるのは、北部と南部だけになる。しかし、南部では、ルーマニア国境に近いウクライナのドナウ地域に2023年7月、ロシアによる攻撃があった。

 そもそも国境地帯というのは、辺鄙なところが多く、車がなければ行けないし、行ったところでぶらぶら歩いて写真など取っていれば怪しまれるだけだ。そういう意味では北部、そこの観光地ソロカ(人口3万7000人)あたりが、安心してウクライナ国内を見渡せる例外的な場所になるだろう(後述の通り「ソロカ要塞」が有名)。見るだけで、自分は何をしているのか自責の念にも駆られるが、ウクライナの人々に敬意を示し、外の人間として何ができるのか考えるきっかけにはなる。

ソロカの位置図。モルドバの東部を流れるドニエステル川はルーマニア語でNistru。その東側(左岸)が事実上の分離国家となっているロシア系のトランスニストリア(沿ドニエストル・モルドバ共和国)領域。Map: Krzysztof, Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.5
ソロカの位置図。モルドバの東部を流れるドニエステル川はルーマニア語でNistru。その東側(左岸)が事実上の分離国家となっているロシア系のトランスニストリア(沿ドニエストル・モルドバ共和国)領域。Map: Krzysztof, Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.5
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