2023年の8月は、まったくもって思いがけない怒涛のひと月となりました。
始まりは1日。山口県上関町で原発の新設を計画している中国電力(以下、中電)が、その計画用地内に使用済み核燃料の中間貯蔵施設(以下、中間貯蔵施設)を建設する意向だと報じられたのです。
計画浮上から41年を経てなお、予定地対岸の祝島を中心に反対する声が根強く、原発さえ押しとどめている町に、原発を運転することで生じる核のゴミを持ちこもうというのだから、唐突で厚かましい話にしか聞こえません。
寝耳に水と衝撃を受ける人びとを尻目に、中電の担当者は翌2日の朝、上関町役場を訪問。町内外から駆けつけた人びとから、「核のゴミはいりません」「帰ってください」「やっと力を合わせて町づくりができるようになったのに、また町民同士を揉ませないで」などと詰め寄られ、正面玄関でなく裏口から、警官に守られて庁舎に入っていったと聞いています。
その日の午後に中電が開いた記者会見によれば、担当者は西哲夫・上関町長と非公開で会談。この2月に町長から「町の地域振興につながることを考えてほしい」と要請されたことへの回答として、中電が上関町内に所有する原発の建設用地内に中間貯蔵施設を、関西電力(以下、関電)と共同で建設・運営することを提案しつつ、その立地可能性調査の実施を申し入れた、ということでした。
それに対して西町長は、「議会へ報告して議員の意見を聞いて判断したい」と応じたとも伝えられました。
世間がお盆休みにむかってオフモードに切り替わりつつある8日、町議会の全員協議会が開催されました。ただし、これは秘密会議のため、そこで話した内容は外へ出してはいけないという内規があります。つまり町民は蚊帳の外に取り残されるのです。そこで、岩木基展・清水敏保・山根善夫元議員と、秋山鈴明・清水康博・山戸孝現議員がそれぞれ、全員協議会を公開で開催するよう事前に要請したのですが、非公開は覆りませんでした。
それでもなお、8日当日には、町長からの説明を求める町内外の住民が多数、上関町の役場へ駆けつけました。ところが町長は説明をするどころか、その人びとを役場1階ロビーまでしか入れず、全員協議会が開かれた議場がある役場3階には入れませんでした。そのうえ警察も呼ぶ警戒ぶりだったと聞きます。
町長は、近く臨時の町議会を招集して、中間貯蔵施設の立地可能性調査の受け入れ可否を多数決で判断する考えだと見られていました。それに先立って14日に、中電から議員へ説明をすることとなりました。そのうえでその日の午後には議会運営委員会を開き、臨時の町議会の期日を決めることとなったのです。
14日当日の朝。「このタイミングで中電から説明を受けると『町民への説明を実施した』という既成事実化に利用されるだけではないか」と、前述の現職町議3人はその日、そもそも登庁しませんでした。一方、役場に現れた中電の担当者は、集まった人びとから強い抗議を受けて庁舎内へ入るに至らなかったようです。
「今日は盆ぞ!」
「先祖がみな帰ってきとる中、何をするか」
「帰れ、帰れ」
こうして中電による説明はそのまま中止となっています。
それでもその午後には、予定通り議会運営委員会が開かれ、18日に臨時の町議会を開催することが決まりました。
そうして迎えた18日の金曜日。西哲夫町長は中間貯蔵施設の立地可能性調査を受け入れる考えを、臨時議会で正式に表明。閉会後まもなく、ファックスで中電へその旨を回答しています。
民主的な手続きを経ていないのみならず、暴力を頼みにした町長の独断専行だと言わざるを得ません。その日、臨時の町議会を傍聴しようと町内外から町役場へ集まった人びとは、150人かそれ以上はいたと思います。登庁してきた町長に気づいて口々に、
「ちゃんと説明してください」
「中間貯蔵施設に反対してください」
「立地可能性調査を受け入れないでください」
「昨秋の町長選挙のとき、中間貯蔵施設のことを言わなかったじゃないですか」
「中間貯蔵施設の話は選挙の洗礼を受けていません」
「独断で決めないでください」
などと訴えました。
そのため町長が警察を呼び、機動隊に守られて役場へ入っていく事態となっていたのです。騒然とする場面もありました。そのときの町役場前の様子を撮影したので、以下のURLからご覧になってください。この3本の映像を通して、あなたも現場を目撃してください。
その1: https://wan.or.jp/article/show/10794
その2: https://wan.or.jp/article/show/10795
その3: https://wan.or.jp/article/show/10796
そうして早くも21日の月曜日には、中間貯蔵施設の立地可能性調査のための立木伐採許可申請を、中電が町へ提出したと報じられました。目を離せない状況がつづきます。
*本稿は一般財団法人上野千鶴子基金の助成を受けた取材活動を土台に執筆しています。
山秋 真
『地球号の危機ニュースレター』
No.519(2023年9月号)