「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

フランスでもやがて極右政権が誕生か

フランスでもやがて極右政権が誕生か

@佐藤ヒロキ

周辺諸国でも右派に追い風?

 ここで少し目をフランスの周辺諸国に転じると、ヨーロッパの政界でもいま右派に追い風が吹いている感がある。上でも触れたように、イタリアでは2022年秋に実施された総選挙で、極右政党「イタリアの同胞(FdI)」が第一党となり、同党を中軸とするメローニ政権が誕生して衝撃を与えた。

 スウェーデンでも2022年秋の総選挙で政権が左派から右派に移動した。穏健党、キリスト教民主党、自由党の右派3政党が連立政権を組んだが、実は右派陣営の最大勢力は極右のスウェーデン民主党であり、政権は民主党の閣外協力に支えられている。

 2023年4月にはフィンランドでも総選挙が行われ、与党の社会民主党が敗北して、中道右派野党の「国民連合」が第一党、右派の「フィン人党」が僅差で第二党につけた。

 もちろん、その一方で、デンマークの総選挙(2022年11月)ではフレデリクセン首相が率いる左派ブロックが過半数を制しており、ラトビアの総選挙(2022年10月)でもカリンシュ首相が率いる中道与党「新統一」が勝利するなど、右派がいたるところで勝利しているというわけではない。

 また、各国に特有の歴史や事情や問題があり、一部の国で右派が政権を掌握したからといってそれをヨーロッパ全体の傾向のように受け止めることは軽率かも知れない。 しかし、不法移民対策やロシアの脅威を前にした安全保障対策は今やヨーロッパ諸国のほぼ共通の課題であり、こうした情勢が右派に有利であることは否めない。

フランスでもやがて極右政権が誕生か
@佐藤ヒロキ

右派(保守)と極右は別物、でも境界は曖昧?

 フランスでルペン人気が回復している背景にはこのような地政学的要因もあると考えられる。ただし、右派とか極右とか言っても、決して一様ではない。右派(保守)と極右は全く別物で峻別すべきという見解もあるだろうが、多くの国で、右派と極右の境界は曖昧で、伝統的な保守勢力の中にも、極右に近い立ち位置をとる人々は少なくない。

 また、極右にカテゴライズされる勢力にも複数の異なる流れがあり、フランスにおいても、ルペンと国民連合(RN)が極右の全てを糾合しているわけではない。RNの前身の国民戦線(FN)は内紛を繰り返し、有力幹部が離党して新党を立ち上げるという危機的状況を一度ならず経験した。

 さらに2022年の大統領選挙では、著名ジャーナリストのエリック・ゼムールがルペンに対抗する極右系の候補者として出馬し、結果的には4位に甘んじたものの、新党を結成して選挙後も政治活動を展開している。

 ゼムールは自らの立ち位置について、ド・ゴール主義の由緒正しい右派勢力を復活させることが目標だと主張しており、移民やイスラム教に関する排斥的な姿勢のせいで外部からは極右とみなされていても、RNとは系統が違い、支持層も異なっている。

 他方では、反政府デモなどに参加して、公共財を破壊し、治安部隊と衝突を繰り返す暴力的な極右集団も存在し、「普通の政党」として穏健路線に転じたRNは、こうした過激な極右勢力と一線を画そうと苦慮している。

 なおまさにド・ゴール主義の流れを汲む伝統的な保守政党である共和党は、マクロン大統領による左右の中道勢力糾合による切り崩しで弱小政党に転落してしまったが、中道右派の有力者が抜けた分だけ右傾化する傾向にあり、極右に近い立場をとるシオティ下院議員が党首を務めている。弱体化したとはいえ、無視できない影響力を今も維持している。

今後の極右を含む右派の動向を追う

 私自身はもちろん、極右政権の誕生を望みはしないが、イタリアの例などを横目で眺めつつ、フランスでも一度試しにやってみたらいかが、という気持ちでいようかと考えている。実際に極右が政権に就いても慌てないですむように心構えを整えておきたいという意味合いもあるが、お手並拝見という好奇心も少し働いている。それに、極右政権が壊滅的な結果を残せば、有権者も二度と極右に政権を委ねようとは思わなくなるのではないか、という期待もある。

 いずれにしても、極右を含む右派の動向を見守ることは、フランスやヨーロッパの今後の行方を把握する上で不可欠であり、また、フランス人やヨーロッパ人の考え方や感じ方を理解する一助ともなるだろう。こうした観点から、私はこれから数回に分けて、フランスを中心に、広義の右派の動きを追ってみたいと考えている。乞うご期待。

佐藤 ヒロキ

フランス在住ライター

『地球号の危機ニュースレター』
No.516(2023年6月号)

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