「地球号の危機ニュースレター」531号(2024年9月号)を発行しました。

インドネシアに水上太陽光発電、東南アジア最大の145MW

シタラ水上太陽光発電所遠望

© 井田 均

井田 均(市民エネルギー研究所)

PT PLN本社を取材

 インドネシアに水上太陽光発電所が完成したという情報があった。ジャワ島西部にあるバンドンよりも西にあるWaduk Cirata(チタラ湖)という名の湖の北東部にあるという。

 グーグルマップを見ると確かにあるようだ。インドネシアにある東南アジアでも大手の電力会社のPT PLNが、アラブ首長国連邦の再生可能エネルギー開発企業、マスダールと協力して建設し、昨年2023年9月11日に稼働させた。ピーク時の発電能力の192MW(交流だと145MW)は東南アジアでは最大だ。

 これを知って、行って見たくなった。チタラ湖に一番近い町はCianjurという所でここにはホテルも有るようだ。まず航空機でインドネシアの首都、ジャカルタに行く。ジャカルタからはまず列車で60kmほど南下し、Bogorという町で1泊。そこからさらに列車で南東にある町のSukabuniを経由してCianjurへ行く。こういうルートを設定して旅の準備にとりかかった。

 実際に家を出たのは、8月5日。成田空港の近くに前泊し、翌8月6日に成田発インドネシア・ジャカルタ行きの飛行機に乗った。空港から電車とタクシーで移動。夕闇迫るころ、この水上太陽光発電事業の一翼を担った電力会社のPT PLTの大きなビルの近くにあった Aros Guesthouse Blok M1に着いた。翌日PT PLTへ取材しやすいと思った。

 翌朝、張り切ってホテルを出る。目の前に聳える巨大なビルを囲った強固な塀の周りをまわって入口に辿り着いた。だがここは車両専用の入口だと言われ、体よく追い返された。来た道を戻って人専用の入り口から入ろうとした。だがここでも止められる。見るとその入り口の左側に2人の女性の受付要員がいた。

 彼女らに、1週間ほど前にこのPT PLTの1部門 で恐らく水上太陽光発電の建設事業を担当していると思われたPT Energy Management Indonesia宛てに出した質問のメールを見せた。「この質問メールを送付したが返事をいただいていません」と言った。

 彼女は、少し困ったような表情をうかべ、「このセクションはこのビルには居ません。他の所です」と言う。私は「質問を送付したのはここだけではありません。PT PLN本社のお問い合わせ窓口にも同じ内容のものを送付しました」と言った。すると彼女は頷いて、少し待つようにと言う。外に置いてあったベンチで待つ。ややあって彼女が呼びに来た。5階へ上がりMr. Imanに面会しろと言った。

 Mr. Imanは感じが良い人だった。水上太陽光発電所で発電した電力は1kWh当たり米ドルで、5セント台で売電していると説明した。売電価格は為替の変動下でもこの範囲に収まっているという。売電期間は25年間であることも教えてくれた。ただ私がもう1つ知りたかった水上太陽光発電所を撮影するのに最も良いと思われる地点については、「良い撮影地点は知らない」と逃げられてしまった。仕方が無い。自分で探すしかないか。

 この水上太陽光発電所はPT PLTと再生可能エネルギー会社アブダビ・マスダールとの共同事業で、約3億ドルの費用をかけて34万枚の太陽光パネルを設置している。ピーク時には5万世帯分の電力相当の電力を供給する。水深100mに達するチタラダムの係留は世界最深だとういう。

現地行きに苦労

 ジャカルタからBogor、Sukabumi、Cianjurと列車で移動出来ると思っていた。ただしこの情報は「地球の歩き方インドネシア’09~‘10」というかなり古い書籍情報によるものだった。出発の日が近づきあと1週間ほどに迫った時、やはり十何年も前の情報ではまずいのでは、と思い、最新号の2024~25年版を購入した。

 これを見て驚いた。ジャカルタからの列車はBogorまではあるものの、それから先は無い。SukabumiへもCianjurへも列車のルートは無かった。おおいに焦ってしまった。列車は無くてもバスはあるだろう、とは思ったが確信は持てない。あわてて地球の歩き方編集部とインドネシア関連の情報を発信している報道機関に問い合わせた。地球の歩き方編集部は無しのつぶて状態だったが、インドネシア情報の報道機関からは詳細な情報が送られて来た。いわく、Bogorより先へも列車はある。いくつかのルートがあり、それぞれの発車時刻が事細かく記入されていた。

 これでひとまず安心したのだが、さらに実際に足を進めていくと、不安は強くなっていった。例えばBogorで泊まったHotel Salak The Heritageの旅行情報提供役の女性は、「BogorからSukabumiまでは列車がある。しかしその先、Cianjurへ行く列車は無い」と言う。

 翌朝は緊張してホテルを出た。タクシーでBogor駅へ行った。切符の販売窓口で「Sukabumiまで1枚」と言ってみた。切符販売員の女性は私の後方を指差しながら「CNビルへいけ」と言う。「え」。振り返るとこの駅,Bogorの構内が広がった向こうの外側は左右に車が走る交通量豊富な道路があり、その更に向こうにCNビルと書かれた建物があった。そこへ向かって歩きながら、半信半疑とはこういうことを言うのだろうと思った。

 道路を渡って、敷地の中に入りCNビルの前にいた中年の男性に「私はSukabumiに行こうと思っている」と言ってみた。或いは怪訝な顔をされる事を半ば恐れつつの発言だった。

 しかし彼は頷いて、「ついてきなさい。一緒に行こう」と言い歩き出した。何と彼はBogor駅から離れる方向へ向かっている。遥か彼方に列車の駅舎のようなものが遠望できた。「あれは駅舎ですか」思わず聞いていた。それはBogorからSukabumiまで行く列車の発車駅だった。しかし列車は1日に3本しかなく、この時は10時前だったが朝の1本目は既に発車済み、次の便は14時05分発だという。女性の切符販売員に「Sukabumiの先も列車はありますか」と聞いてみた。嬉しい事に「ある」と言う。「それではSukabumiにも列車で行けますか」と聞くと「Yes. You can」

 列車の発車時刻までの数時間は長かった。外は赤道直下の炎天下。とてもある歩き回る雰囲気ではない。広大な待合室の壁に貼ってあった鉄道路線図のBogorからCianjurまでの間にある多くの鉄道駅の名前を書き写したりして時間を潰した。

 初めは閑散としていた待合室も次第に乗客が増えてきた。やがて待ちに待った発車時間になり、来た列車に乗車した。

 2時間近い乗車で乗換駅のSkabumiに到着。次の列車は1時間近い待ち合わせで発車した。目的地のCianjurには定刻の18時15分に着いた。

 駅舎を出た。だがタクシーが見つからない。駅員と思しき人に、タクシーには何処で乗れるか訊ねた。数人が集まって来た。なかの1人がどこかへ電話をかけた。しばらくして車がきた。タクシーではなく普通の乗用車だった。乗車間際にさっきの人が私に「車代は100000ルピーだ」と言った。100000ルピーと言えば日本円で千円だ。タクシー代が安いとされているインドネシアでは高額の部類と言える。それともかなり遠いのか。

 しかしそんなことはなく、かなり近かった。私が千円を払うとその運転手は満面の笑みを浮かべた。こうして私はCianjurの宿であるShine BnBに到着した。

1 2