早川 幸子
東日本大震災による東京電力の原発事故を受け、エネルギーを大量消費する生活を見直そうと思った私は、2013年10月から5アンペア生活を始めました。
一度に使える電気は5アンペアまで。電子レンジや電気炊飯器など消費電力が500Wを超えるものは使えません。それでも、やる気になれば何とかなるもので、使用する電気製品を消費電力500W以下のものに絞ったり、電気を使わない昔の道具を使ったりしながら日常生活を送りました。
やがて5アンペアで暮らすのが当たり前になり、2016年10月に茨城県石岡市の八郷地区に移住してからも、その生活スタイルを続けました。移住当初は友人と一軒家をシェアしていましたが、彼女の絶大なる協力のおかげで、2人暮らしでも5アンペア生活を続けることができました。
ところが、5アンペア生活を阻むものが現れたのです。それは、年々、過酷さを増している夏の暑さでした。
「災害級」「命の危険を伴う」夏の暑さ
私はフリーランスのライターで、取材を除くと、平日の昼間は自宅で原稿を書いたり、調べ物をしたりして過ごしています。移住した翌年、八郷で初めて迎えた夏は、扇風機の風だけでも、苦痛を感じることなく自宅で仕事ができたと記憶しています。
「八郷は自然が多いし、やっぱり東京よりも涼しいんだ」と思ったのです。
気象庁の当時の記録をたどってみると、八郷に近い土浦市の2017年8月の平均気温は25.3度。30度以上の真夏日は38日間で、35度以上の猛暑日は2日間だけです。
「これなら、ずっと5アンペア生活を続けられるかも!」と思ったのも束の間、翌年の夏から、私の期待はあっさりと裏切られることになりました。
移住2年目の2018年の夏、土浦市では真夏日が52日間、猛暑日は14日間に及びました。夏の暑さは、毎年のように平年を上回る傾向が全国的に強まっていますが、自然が多い八郷も例外ではなかったのです。ここ数年は、夏の暑さが「災害級」「命に関わる」と表現されるようになり、政府広報でも熱中症予防のために「適切にエアコンを使用しましょう」とアナウンスするようになっています。

茨城県土浦市 8月の気象状況(気象庁ホームページのデータを元に作成) © 早川幸子
でも、5アンペア生活ではエアコンは夢の家電です。機種にもよりますが、6畳用などの小さなエアコンでも冷房時の消費電力が400~500Wかかります。運転の立ち上がり時や暖房時、気象状況によっては、さらに大きな電力が必要になるので、5アンペア契約では一瞬でブレーカーが落ちてしまいます。5アンペア生活を続ける限り、エアコンは使えません。とはいえ、5アンペア生活を諦めたくなかった私は、少しでも涼しく過ごせる工夫をして、酷暑に立ち向かうことにしたのです。
夏を涼しくする工夫で5アンペア生活続行
当時暮らしていた賃貸住宅は、家の南側が全面大きな掃き出し窓になっていて、晴天の日は、その大きな窓から日差しが入ってきました。
燦燦と降り注ぐ日差しは、冬は太陽からの最高の贈り物です。縁側はぽかぽかで、日中は暖房なしで過ごすことができました。日が落ちてからも、灯油ストーブで暖をとったり、厚着をしたりすれば、大きな問題はありませんでした。ところが、夏はこの窓からの熱によって室内が灼熱地獄に様変わりします。太陽が昇り始めると同時に、室温がぐんぐんと上がってくるため、じっとしていても額から汗が噴き出してきます。
そこで、まずは家中の窓という窓に簾をかけて、直射日光を遮るようにしました。これだけで、室温は2~3度低くなりました。

夏の暑さをしのぐ簾 © 早川幸子
5アンペアで涼をとるための主力家電は、消費電力が2~50W程度の扇風機です。私は、その構造を生かして工夫しながら使うようにしました。扇風機は、羽の背面から空気を集めて、前面に風を送りだす仕組みになっています。暑い部屋のなかで扇風機を回しても、ただ暑い空気をかき回すだけになってしまうので、外出先から帰ってきたら窓を開けて、まずは窓の外に向けて扇風機を回すようにしました。こうすると、室内にこもった熱気が外に追い出され、外からの涼しい風が室内に入りやすくなります。
この他にも、消費電力が200W程度の冷風機を導入したり、水を入れて凍らせたペットボトルを置いて湿度対策をしたり、寝る時はアイスノンで頭を冷やしたり、涼をとるために様々な工夫をしました。でも、これらはあくまでも「涼しく感じるための工夫」で、室温を大きく下げる効果はありません。いくら簾で窓を覆っても、晴天の日中は9時過ぎから室温が30度を超えてきます。こうなると、集中力が続かず、仕事も手につかなくなります。そこで、2018年からは、夏の暑い日は石岡市やお隣の笠間市の図書館で仕事をしていました。
なかでも気に入っているのが、石岡市の八郷庁舎に併設されている「郷の本棚 やさと図書館」(2022年4月開設)です。窓際に並んだ閲覧席からは田んぼが眺められ、持ち込みのパソコンを使うこともできます。最近の図書館はフリーWi-Fiのところがほとんどで、仕事をするのにもありがたい環境です。図書館の休館日は、買い物がてらショッピングモールのフードコートに行ったり、八郷の涼スポットの鳴滝にお弁当を持っていって、そこで原稿を書いたりしていました。こうして、酷暑の夏も楽しみを見つけながら、なんとか5アンペア生活を続けていました。

© 早川幸子
酷暑とコロナ禍
エアコンの使えない5アンペア生活では、暑い夏は家を出て、外で過ごすことが対処法でした。ところが、2019年末から始まったコロナ禍では、自由な外出が制限されることになりました。当時の混乱は記すまでもありませんが、感染者が爆発的に増えてコロナ病床が不足しだすと、重症化リスクの低い人は自宅療養が原則になりました。幸いなことに、私は一度も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかからずに今に至っています。でも、もしも真夏に感染していたら、エアコンのない自宅で療養することになっていたかもしれません。どんなに暑くても外出はできず、感染症ではなく、熱中症で命を落とすのではないか……。そんな不安が頭をもたげてきたのです。
とくに2023年以降は、35度を超える猛暑日が約1カ月もの間続くようになっています。今はまだ体力があるけれど、この先、もっと年を重ねたら、夏の暑さに耐えられない日がくるかもしれない。気候変動やパンデミックは、私の5アンペア生活に対する考え方にも影響を与えるようになりました。
東京電力が事故を起こした原発の廃炉作業が進まないなかで、5アンペア生活を辞めることは忸怩たる思いです。でも、これから先の自分の体調を考え、引っ越しを機に新しい家にはエアコンを導入するという苦渋の決断を下したのです。2013年10月17日から始まった私の5アンペア生活は、4189日で幕を下ろすことになりました。
私の5アンペアより、みんなのマイナス10アンペア
新しい家の電気プランは、エアコンの機種の関係で30アンペアを契約していますが、エアコンを除くと、今も使う電気製品は5アンペア生活時代と変わりません。使える電力量は増えたけれど、ごはんは土鍋で炊いて、調理には蒸し器や鍋帽子を活用しています。電気炊飯器も、電子レンジも、トースターも、食洗器も、ホットプレートも我が家にはありません。
5アンペア生活には終止符を打ったけれど、この先も私は節電生活を続けていきます。それは、小さな節電でも、まとまれば大きな力となって、この国のエネルギー政策にインパクトを与えるものなると思っているからです。
5アンペア生活をしていた私の2023年の1年間の電力消費量は485kWhでした。環境省の「令和5年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査 資料編(確報値)」(令和7年6月)によると、一般家庭の1年間の電力消費量は3911kWhなので、私は一般家庭よりも年間3426kWhの節電をしたことになります。
とはいえ、2023年度の日本全体の最終電力消費は8792億kWhでケタが違います(資源エネルギー庁「2023年度エネルギー需給実績(速報)参考資料」)。日本全体の電力消費に対して、私の節電など砂粒ほどの効果もなく、5アンペア生活も単なる自己満足に過ぎません。わずかな人が極端な節電をしても、エネルギー政策に影響を与えることはできないのです。
でも、5アンペア生活をするのは無理でも、マイナス10アンペアなら手の届く節電ではないでしょうか。例えば、一般家庭で電気プランを一段階低いもの変えて10%電力消費量を減らすと、一戸あたり年間391kWhの節電になります。もしも、全国の5483万世帯全てが10%の節電をすると1年で約214億kWhの電力を削減できる計算になります。これは、事故を起こした東京電力の福島第一原子力発電所の2号機(発電出力78万4000kW)の4.5基分の年間発電量に相当します(稼働率70%の場合)。
たとえ10%の節電でも、多くの人が実践すれば、エネルギー政策を左右するほど大きな力になるのではないでしょうか。だから、私は思うのです。
私の5アンペアよりも、みんなのマイナス10アンペアが大切なのだと。
5アンペア生活には区切りをつけましたが、私の節電生活はまだまだ続きます。そして、電気をたくさん使わなくても豊かに暮らせることを、私の畑から皆さんに伝えていきたいと思っています。(以下、次号)
早川 幸子
『地球号の危機ニュースレター』
No.545(2026年7月号)


