【助成金事業報告】
アドボカシーと市民社会の未来を展望する
~ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて~
報告: 神田 浩史
あどぼ・してぃずんプロジェクト
あどぼ・してぃずんプロジェクトは「あどぼの学校」として 2015 年に京都で誕生し、多様な分野の市民社会のアドボカシー(権利擁護、世論喚起、政策提言など)の担い手を育み、互いに学びと実践を深めていくためのプラットフォームとして活動してきました。また、アドボカシーを通じて、日本社会の民主主義を「公開・参加・透明性」あるものへとアップデートしていくための構想や活動を行ってきました。
これまでの活動としては、2015 年度は京都で、2016 年度は名古屋で、2017 年度は岐阜で、それぞれの地域特性を活かした講座を展開し、2018 年度以降は、「あどぼの学校」の 3 年間で培われてきた地域を超えてのネットワークを継続し、多彩な人材育成事業を展開しながら、久留米や札幌など、新しい地域への展開も進めてきました。2021 年度からは、アドボカシーと市民社会の『来し方、行く末』を考えるべく「あどぼを紡ぐ研究会」を開催し、これまでのアドボカシーの歩みのアーカイブ化(記録作成・公開)と世代を超えた継承に取り組み、2023 年度からは、「アドボカシーと市民社会の未来を展望する」と題して、ポスト SDGs 時代のアドボカシーについての議論を重ねてきました。
このたび、これらの活動の成果の取りまとめとして、これからのアドボカシーや市民社会のあり方を展望する提言「アドボカシーと市民社会の未来を展望する ~ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて~」を作成・公開することとし、同提言案をもとに、幅広い立場・分野の人々や、全国各地、様々な分野で活躍されているアドボカシー活動の担い手の人々と意見交換を重ね、ポスト2030(SDGs)時代のアドボカシーと市民社会を展望し、市民社会全体やそれぞれの分野・団体の活動につなげるきっかけとするため、シンポジウム「アドボカシーと市民社会の未来を展望する 〜ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて〜」および「あどぼのプラットフォーム会合2024」を開催しました。
日 時: 2025年3月22日(土)13:30〜23日(日)12:30
会 場: 連合会館 4階 402会議室 (シンポジウム)、アジア太平洋資料センター(PARC)会議室 (プラットフォーム会合)
登 壇: 有坂美紀さん(RCE 北海道道央圏協議会、北海道 NGO ネットワーク協議会)、野川未央さん((特活)APLA)、三木由希子さん((特活)情報公開クリアリングハウス)、加藤良太さん(あどぼ・してぃずんプロジェクト、市民社会スペース NGO アクションネットワーク(NANCiS) )、小泉雅弘さん(あどぼしてぃずんプロジェクト、(特活)さっぽろ自由学校「遊」)、神田浩史さん(あどぼ・してぃずんプロジェクト、(特活)泉京・垂井)
参 加: [シンポジウム] 22名 [プラットフォーム会合] 22名
助 成: 一般財団法人 大竹財団
主 催: あどぼ・してぃずんプロジェクト
シンポジウム概要紹介
本シンポジウムには、限られた人数ながらも、全国の市民社会各分野から、アドボカシーの担い手や関心のある人々が参加した。3時間という長めの時間設定ながら、参加者を中心としたグループディスカッションは盛り上がり、多くの議論や論点が示され、共有された。
当日は、前半に主催者側(加藤良太、神田浩史、小泉雅弘)から資料とフルテキストで参加者に配布された提言「アドボカシーと市民社会の未来を展望する ~ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて~」案が説明され、それに対して、三人のコメンテーター(三木由希子氏、野川未央氏、有坂美紀氏)からコメントを受けた。コメンテーターからは、提言案に関する所感とともに、提言案に足りないポイントや、より強化すべきポイント、また、ポスト2030(SDGs)時代の「ビジョン」を示すとする提言案の内容・立ち位置に対して、人々や市民社会や直面する現実との「距離感」と、それをどう埋めていくかなどについて、示唆に富んだコメントがなされた。
その後、休憩を挟んで、参加者の関心に応じて、提言案の項目ごとに5つのグループに分かれて、参加者、コメンテーター、主催者を交えたグループディスカッションが行われた。いずれのグループも活発な意見交換がなされたが、提言案が扱うべき多くのポイントが示されるとともに、やはり、こうした「提言」を市民社会が提示する意義、提言を「誰が」「誰に」向けて提示するべきなのかなどについて、話が盛り上がっていた。社会のさまざまな分野やその課題に具体的に向き合っているがゆえに、その現実から距離のある「夢」や「展望」を市民社会として描き、表明することの難しさ、違和感を率直に表明する参加者もいた。
3 人のコメンテーターがそれぞれの立場から、ポジション・ペーパー「ポスト2030(SDGs)時代の市民社会とアドボカシーを展望する」(案)第 3 章へのコメントを発表した。
コメンテーターからのコメント①
三木由希子さん(情報公開クリアリングハウス)
制度を使う人がいないと成り立たない情報公開制度。行政政治権力への情報集中とその権力を構築する民主主義的なプロセスで、冷戦前は西側・自由主義陣営の特色として、冷戦後は ODA 受け取り国などでの汚職・腐敗防止として機能してきた。強固な“民主的官僚組織”(日本も含めて)よりも、現在、国際基準の上位に来るのはアフガニスタンというのがその表れ。
政治や政府をどう良くしていくか、という発想がないと機能しない。公開情報に関心を持つよりも、黒塗りの方がインパクトが大きいのと、公開された情報を読み解く方が大変。情報を見るのは、それなりにコストがかかるので、情報を社会で活かしていくには個人では困難で、個人の理解を促すための工夫として中間組織(中間的な存在である市民社会組織)が必要となる。
情報公開や参加、民主主義を考える上で、みんなで共通イメージを持てることが大切。パブリック・コメント、審議会への市民参加などを盛り込んだ「市民参加条例」が一時期はやった。ただし予定調和的な参加に留まる。
パブリック・コメントは行政の立法的行為の事前チェックの仕組みとして行政手続法で規定されている。パブリック・コメントは最終段階のチェックなので、多数決でもないので、市民のイメージとの乖離が起きる。別の参加手段が担保されていないと、唯一の参加手段であるパブリック・コメントに参加が集中する。審議会の公募は自治体レベルでは進んでいるが、担い手不足(昼間の会議に出られる人が限定的など)に直面しており、いろんなレベルで市民社会の層を厚くしていくことが重要かと思われる。
コメンテーターからのコメント②
野川未央さん(APLA)
パレスチナに象徴されるセトラ植民地主義・入植者植民地主義の問題。日本政府は二国家承認をうたいながら、未だにパレスチナを国家承認していないことへの市民社会の動きに対して、“停戦”が破られたことに対する日本政府の定型の文言を繰り返すだけの対応。暮らし・命を維持する大切な市民社会の営みと、構造を変えられないことへの忸怩たる思いがある。現場で活動している団体が BDS を口にするとパレスチナに入れない、占領・人権侵害について口にできないジレンマに陥ってしまう。
構造を変えることを主題として活動する NGO と、そういったジレンマを抱えながら活動せざるを得ない NGOとの対立ではなく協力関係を築くための工夫、誰と誰が手を組むのか。インドネシアに25年間併合され続けてきた東ティモールとインドネシアを支援し続けた日本政府という現実があったが、一方で、日本政府は現在では手のひら返しで東ティモールを支援し、平和構築をうたっている。東ティモールでの対応から想起する今後のパレスチナへの対応への懸念。
現在の問題としての脱植民地化の重要性を痛感している。私たちが脱植民地化を語るときに、沖縄・南西諸島の軍事化についても触れて欲しい。環境のところでも軍事と環境として深く関わってくる。
コメンテーターからのコメント③
有坂美紀さん(RCE 北海道道央圏センター)
海洋生物学から水産業界紙記者になったが、突っ込んだ記事については没になる。地域の人が動かないと、研究者、新聞記者だけでは環境問題はどうにもならないことを痛感した。オーストラリアに行き、帰ってから EPO(環境パートナーシップオフィス)のスタッフとして、その経験を活かしてパートナーシップの構築で今も NPO・NGO だけでなく地域の人、自治会の人などをつなぐ役割を進めている。そうして、道央圏の持続性を高めていきたい。
ペーパーの P3 右段7~9行の市民社会の継承について、今の感覚はどうなのか?ということの記述がないのが気になる。生態学をやっていると、環境は日々、変わっていく、関係性も変わっていくので、市民社会も変化をどう捉えていくのか?ダメというだけではなく、変わっていっていることの良さや変わってはいけないことの大事さなども考えてもらうことが大切かと思う。
日本生態学会の科学コミュニケーションでの議論で、専門家vsそうでない人という議論と同様に、専門性のあるNGOvs市民という構図にならないか?市民とは誰?市民と言ってピンとくる人は少ないのでは。自分ではないという捉え方をされてしまっている。民主主義のエクセサイズの前の段階として、デューイの民主主義的生活様式(日常会話の中でのさりげない会話)が必要ではないか。これを市民社会組織としてどうやって作っていくのか?物わかりのよい中間である必要はないので、問題を摘出する組織の必要性がある。

© ADVO Citizen Project & Sento Tarui
分科会と主な意見
1) 人々の尊厳と権利に価値をおく
- 当事者として運動に関わることで立場を搾取されることへの配慮
- マジョリティの自己批判の傾向は勇ましいが、マッチョがマッチョを生む
- 「解体」した後に何が残るのか?という不安→どうやって再構築していくのか
- “マウンティング・ワールド”に生きている
- 「変われなかったことに携われなかった人」への配慮・・・変革によって取り残されてきた人たちとの分断
- Rights-Based Approach の重要性
2)公開、参加、対話、透明性のある政治・経済・社会の仕組みをつくる
- パブリック・コメントに出る手前のプロセスが重要
- 情報の透明性とは?・・・「誰が」「どういう判断基準で」決定していたか、ということがわかるように
- 何を目的に情報公開や参加を求めていくのか?
- 対案づくりのコストへの言及の必要性
- アジェンダ設定からの市民参加・・・事業の最初期段階からの参加
- 中間団体(ヨーロッパの教会のような)の重要性
- 「分裂した社会」における政策決定の追跡
- 公的機関の民営化(私営化)・民間委託による情報非公開性
- JICA 環境社会配慮ガイドライン策定における公開と参加の前例と一方で、それ相応のコストがかかっている
- 公開される情報の、「何を選んで」「何が選ばれなかったのか」・・・プロセルの記録公開の重要性
3)国内外の脱植民地化をすすめ、人々と暮らし、地域、世界のつながりを紡ぎ直す
- グリーン・コロナイゼーションへの懸念
- 植民地支配の重層性・・・先住民族の先住性
- 市民社会は、誰が、誰に向けてなのか?
- 日本で働く外国人の視点←植民地的社会構造
- 構造の中で一番弱い人に向けて・・・失敗の歴史、民衆を美化しない
- 開発とは何か?
4)人々の参加のもとに、自然環境と人間関係の持続可能な調和を図る
- 自分自身が生態系の一部というリアリティのなさ、経験のなさ
- 未来の人々+動植物の声(研究者、農山漁村居住者)などの参加の大切さ
- 「どこでも生きられる方」と「ここでしか生きられない方」が併存していることへの理解
- 敵対よりも「より良い世界に向けて」
5)民主主義の深化・進化を進める
- 民主主義の基盤が崩される・・・民主主義を崩すような企業
- ファンダムの広がりに対抗するためのエクセサイズ(ローカルでは成果も)
- 国際法秩序・・・南の側・弱者にとって不利なグローバル・ガバナンスをどう扱うかの記載が必要
- 信頼ベースに立った市民社会スペース⇔陰謀論
- 安心できる場、信頼できる仲間
- 教育・学習への言及の必要性
その後、全体共有の時間がもたれ、それを受けての議論の中で以下のキーワードが提起された。
- 国民国家が住民を代表している?自明か?
- 市民とは?人とは?
- 本ビジョンでは、「日本の市民社会の」を明快に示す
- 持続不可能になった原因・・・開発?資本主義?
- 次世代への継承
ここで出されたコメントや、それを受けての数多くの意見を受けて、ポジション・ペーパー「ポスト2030(SDGs)時代の市民社会とアドボカシーを展望する ~ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて~」(案)を加筆していくことを確認して閉会した。

© ADVO Citizen Project & Sento Tarui

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あどぼのプラットフォーム会合2024
本会合は、あどぼ・してぃずんプロジェクトが、実施各プログラムに参加する全国の市民社会関係者が集まり、知見、経験を交流する機会として例年実施しているものであるが、今回は前述のシンポジウムと合わせて開催した。本会合には、全国から約20名の市民社会関係者が参加し、シンポジウム後、近隣の NGO 事務所の会議室に場所を移して、シンポジウム結果の振り返りから会合を始めた。
会合では、シンポジウムでの話し合いを受けて、提言の位置づけを、具体的に市民社会のアクションを提起するものというより、そのための展望や論点を示す文書(本会合を受けて「ビジョン文書」と表現)と位置づけること、同文書の完成を受けて、それを具体的に全国各地、各分野に適用し、実践していくためのプログラムの展開などについて、資金計画も含めて具体的な話し合いが行われた。
[あどぼのプラットフォーム会合2024参加者(敬称略)]
北海道: 小泉雅弘(さっぽろ自由学校「遊」)
有坂美紀(RCE 北海道道央圏協議会、北海道 NGO ネットワーク協議会)
首都圏: 野川未央(APLA) 三木由希子(情報公開クリアリングハウス) 近藤牧子(DEAR)
中村健(DEAR) 田中滋(PARC) 栗本知子(PARC) 伊集院煕(PARC)
堀内葵(JANIC) 木口由香(メコン・ウォッチ) 大橋正明(SDGs ジャパン、PARC)
新田恵理子(SDGs ジャパン) 高橋悠太(かたわら)
北 陸: 堺勇人(PEC とやま)
東 海: 神田浩史(泉京・垂井) 近藤公彦(なごや自由学校) 鉃井宣人(泉京・垂井)
三石朱美(JELF) 関口明希(AHI)
関 西: 加藤良太(NANCiS)
九 州: 多原真美(NGO 福岡ネットワーク)

[ビジョン文書]アドボカシーと市民社会の未来を展望する
〜ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて〜
シンポジウムの成果を踏まえて、提言案を最終化して、位置づけを「ビジョン文書」として成文化した。
本事業の詳細とビジョン文書については以下のURLから閲覧できます。
・本事業の詳細ページ(あどぼ・してぃずんプロジェクト)
https://www.advo-citizen.org/tsumugu#post-sdgs
・ビジョン文書「アドボカシーと市民社会の未来を展望する〜ポスト2030(SDGs)時代の地域、世界、わたしたちを見すえて〜」(PDF)
https://www.advo-citizen.org/_files/ugd/8e1a9a_80bde471b8824104819f66251921ab50.pdf

