山秋 真
祝島の春の海はひじきの森。ゆたかに茂る海藻が海の水面をざわつかせます。
それを大潮の引き潮どきに刈りとる人、薪火の火力をもってして鉄釜で長々と炊きあげる人、炊きあがったものを潮風で干す人、干しあがったものを袋に詰める人などなど、浜が賑わう季節でもあります。
ひじき仕事の見習いに私も馳せ参じたいものの、今年はさすがに無理かもしれないと思っていたら。わが心のひじき師匠・民子さんの今季最後という釜炊きに、なんとか間にあったから、運がよかったという他ありません。
かろうじて半日ほど火の番をさせてもらい、ひじきを弱火でコトコトと炊いていく最後の1時間−−−−わたしの特に好きな時間帯−−−−まで満喫できました。
最後は火を落として蓋をして、一晩そのまま蒸らして、翌朝に釜からあげます。それを浜で広げて風で干せば、天日干しひじきのできあがり。
干さずにそのまま食せば、釜あげひじきを堪能できます。旬にのみ味わえる、春を告げるこの味わいには、わが地元でもファンが増えています。それを分けてもらって帰宅して、目下セッセと分けあい中。
それぞれ忙しく普段なかなか会えない人たちと、祝島ひじきを分けあうことで顔をあわせ、ついでに近況や情報の共有もすることは、いつしか年中行事のひとつ。祝島ひじきには思いがけずそんな波及力もあって、なんだかありがたいです。
今年はほぼトンボ帰りで舞いもどったのは、ほかにも理由があります。富山県の桂書房から2007年に刊行された、拙著『ためされた地方自治:原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』が再々版されたうえ、4月6日にブックトークを開催いただく運びとなったからです。
私の暦には「珠洲前・珠洲後」と「上野前・上野後」というのがありまして、私にとって二大マイルストーンのひとつである「珠洲」つながりの大先輩・ジャーナリストの七沢潔さんと、二大マイルストーンのひとつ(そのもの)である社会学者の「上野」千鶴子さんが、ゲストにいらしてくださるというので、いまから嬉しい緊張感でワクワクしています。
しかも書評を引きうけてくださった樫田那美紀さんは、『ためされた地方自治』を介して1年すこし前に出会い、地方・女性・運動という3点に特に注目くださった若い女性なので、なお楽しみです。ちなみに彼女は、珠洲原発をつくらせなかった人びとの中でやはりキーパーソンのおひとり、1993年と1996年の珠洲市長選挙に立候補した樫田準一郎さんのお孫さんでもあります。
珠洲市では珠洲原発に関わる歴史があまり語り継がれていないという声を聞きます。だから、珠洲にいま原発がないことは偶然ではないことや、珠洲の人びとがどのような経験を生きた末にもたらした現在なのかを、次世代へ継承していく面でも、貴重な機会になるのではないかと思っています。
会場は東京都内の渋谷区文化総合センター大和田ですが、ご遠方の方や当日ご都合の悪い方でも参加いただける「オンライン視聴」チケット(後日&期間限定配信)もあるそうです。ご興味を持っていただける方は、是非ご参加ください(お申し込みはこちら→ https://ppcolloquium1.peatix.com )。
より詳しくは下の画像をご参照くださいませ。
*本稿は一般財団法人上野千鶴子基金の助成を受けた取材活動を土台に執筆しています。
山秋 真
『地球号の危機ニュースレター』
No.526(2024年4月号)