マイノリティ(少数民族)と難民
以上は定住外国人の流入の数字だが、もちろんトルコにはトルコ国民として存在するマイノリティ(少数民族)も居れば、世界最多と言われる400万人以上の難民も存在する。
トルコは国民のエスニシティに関する統計をとっていない。したがってマイノリティの人口はいずれも推定になる。マイノリティ支援の国際連携団体Minority Rights Group International (MRG)の推計よると、トルコ最大のマイノリティ、クルド人は人口の15〜20%に上る(1500万人前後ということになる)。チェルケス人などコーカサス系が300万人、黒海沿岸に住むラズ人75万〜150万人、ロマ(ジプシー)200万人、その他アラブ人、ブルガリア人、ポマック人(イスラム教のブルガリア人)、ボスニア人、アルバニア人などがおり、宗教的マイノリティとしてアルメニア人6万人、ユダヤ人2万5000人他を数えている。
こうしたマイノリティの多くもイスタンブールに居住し、例えばクルド人の同市内人口は200万〜400万人に上ると推計されている。
そして難民の受け入れが、驚くべきことに世界最多だ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2021年に3,685,839人のシリア難民を中心に計370万人の「難民」を受け入れ、イラクから162,760人、アフガニスタンから125,104人など計32万人の「亡命者」を受け入れている。こうした巨大な難民流入の中では、テュルク系諸国からの流入など霞んでしまい、統計的にも劇的にはならない。しかし、一定の流れとして存在することは確認できる。
「テュルク諸国機構」(OTS)
トルコは、コーカサス、中央アジアのテュルク系諸国とともにテュルク語系国家協力評議会(CCTSS、本部イスタンブール)を2009年に発足させた。2021年の第8回首脳会議でそれを「テュルク諸国機構」(Organization of Turkic States, OTS)に格上げした。テュルク系諸国の連携を蜜にすることを目的に、トルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスの5カ国で構成する。ハンガリー、トルクメニスタン、北キプロスがオブザーバー参加している。
これとは別にトルコは黒海沿岸地域の協力枠組みも主導し、2012年に11カ国で黒海経済協力機構(Organization of the Black Sea Economic Cooperation, BSEC)も発足させた。
西からのシルクロード提案
こうした経済協力を進める上で核となるのが、同じくトルコ提案の中央アジアへの鉄道事業「ミドル回廊」だ。既存ルートを活かしながら、コーカサスー>カスピ海(鉄道連絡船)ー>カザフスタンやウズベキスタンー>中国に向かう。2017年にコーカサス横断の鉄道(BTK鉄道)が完成、2020年にトルコから初の貨物が中国に到達した。ロシアのウクライナ侵攻でシベリア鉄道を避けてこちらを利用する動きが強まり、カザフスタン内で集計された2022年のミドル回廊貨物輸送量は前年比2.5倍の150万トン、輸出量では同6.5倍の89万トンに達した。
インド洋回りのヨーロッパ行き船便が30日前後、シベリア鉄道回りが19日かかるのに対してミドル回廊は12日で中国・欧州間を結ぶという。陸に閉ざされたコーカサス・中央アジアはこれまでロシアに頼る以外活路はなかったが、トルコ方面を通じてグローバル市場に繋がれる可能性が出てきた。
ウクライナ戦争「以後」を語るのは早すぎるが、強圧的なロシアを避けて、こうしたトルコを起点としたテュルク系のミドル回廊の相対的台頭が今後は展望できる。
岡部一明
『地球号の危機ニュースレター』
No.518(2023年8月号)