「地球号の危機ニュースレター」527号(2024年5月号)を発行しました。

夏真っ盛り、フランス人はみんな休暇に?

photo © 鈴木なお

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「人の家でキャンプするとは?」

 ところで、フランス人は最近どういう休暇をとるようになっているのか、例を二つ紹介したい。一つ目は出費を極力抑えた休暇だ。究極的には「休暇に出ない」という選択肢があるわけだが、それ以外の方法としては、「行き先を近場にする」、「カーシェアリングをして移動する」、「ウーフィング(農家などで無償で働くかわりに宿と食事を提供してもらう)をする」などがよく話題にあがる。そうしたなかでも私の目を引いたのは「人の家でキャンプをする」だ。

 車で旅行していると景勝地に大きな庭付きの豪邸があるのをよく見かける。そういう場所でのキャンプかと思っていたら、何の変哲もない芝生の庭、家の脇の牧草地、20平米もない裏庭など、肩の力が抜けた物件がたくさん並んでいて、なるほどと思った。

 これはフランスのHomeCamperという大手サイトを見ての感想だが、料金も5ユーロだの10ユーロだのお手頃価格が多いのだ。キャンプ場と違って少人数で和気あいあいと寝泊まりできることや、自分の訪れたかった場所にピンポイントで泊まれる可能性があるなど、料金以外の魅力も大きいようだ。もちろん貸し出す側も、収入になるうえ、場合によってはキャンパーとの交流など、民泊よりもオープンな繋がりが楽しめるらしい。

子供抜き休暇とは?

 休暇の傾向の二つ目の例は、「子ども抜きの休暇」だ。これは、観光業界の中でもここ数年話題になっている。子どものいる夫婦が「静かに休みたい」、「夫婦仲を取り戻したい」などの切実な思いで「大人オンリーのバカンス・ツアー」に申し込む。

 また、子どものいない夫婦が「ほかの家の子どもの声を聞きたくない」といった理由でこうしたツアーに参加する。「子どもがいない場所でゆっくりしたい」と大きな声で言うのは何となく憚られるのはフランスも同じで、「バカンスは家族で過ごしてこそじゃないか!」という批判が出ていることも確かだ。

 しかし、「家族愛」が何かにつけ叫ばれるフランスでも、一日二日お祖父さんお祖母さんに預けただけでは足りない、本物の子育て疲れを覚えている親も実は多いとされる。

 一方で、子ども抜きの旗をあげてツアーを組むから批判が出ているだけではないかとも思える。

 というのも、以前から「子ども抜きの休暇」はよくあることだったからだ。学校休みの間に子どもを長期で祖父母に預け、生き生きとしている親(私を含む)は周囲にたくさんいた。

 また、学校休みの間、自治体などが主催する「colonie de vacances(コロニー・ド・ヴァカンス)」と呼ばれる林間学校に子どもを送るのは、フランスの長い伝統だ。1870年代にスイスで構想されたcolonie de vacancesは恵まれない家の子たちの健康回復のための林間学校で、フランスでも1880年代に導入された。

 制度が大衆化されるにつれて参加者数が増え、政府によれば、1913年に11万人、1929年に20万人、1945年に30万人、1949年に90万人、1964年には135万人の子どもたちがcolonie de vacancesに参加した。

 新聞記事によれば林間学校の最盛期は過ぎ、2022年に参加した子どもは85万人とされる。「料金が払えない」、「家族で過ごすことを優先」、「指導員たちが信頼できない」などが参加しない/させない理由のようだ。

photo@鈴木なお
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うちの子は...

 うちの子どもについては、あんまりに内気でcolonie de vacancesに行けなかった。きれいな海や山に連れていってもらえるのに、友達をつくるチャンスなのに、と思ったが、話をしただけで泣きそうだったので無理強いできなかった。

 代わりに夏は大田舎にある祖父母の家に長々と行き、従兄弟たちと遊んだり、川で泳いだりしていた。本当に楽しかったらしく、今でもしばしばその話をする。

 その川も近年の気候変動で干上がったのではないかと心配だったが、今夏、数年ぶりに訪れたところ、相変わらずきれいな水がたっぷりと流れていた。周囲の風景も一つも変わらず、小魚たちも群れをなしてツイーツイーと泳いでいる。

 ただ、子どもが一人も見当たらなかった。村の高齢化と過疎化が進み、子どもを連れてくる人が減ったそうだ。あの川で夏の思い出をつくる子どもはもういないのかと思うと、とても奇妙な気持ちだ。

鈴木 なお

フランス在住

『地球号の危機ニュースレター』
No.519(2023年9月号)

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