被害は個人宅ばかりではない
教育省が10月初旬に発表したところによれば、フランス国内で5校がトコジラミの被害で休校となった。5校は異なる5県に散らばっている。
このほかにも休校はしていないが被害が報告されている学校が幾つもあるとされ、また学生寮での被害も出ている。高速鉄道(TGV)内にいたという通報や、パリの地下鉄8号線の運転士が運転席で見つけたという通報もあった。
フランス国鉄(SNCF)およびパリ交通公団(RATP)は直ちに検査を行い、「トコジラミは一匹も見つからなかった」と発表した。
しかし、地方都市でも公共交通手段の利用者が見つけたトコジラミらしきものの情報がSNSにアップされており、今後しばらく「発見投稿」が続きそうな気配だ。
不祥事に発展したのは
一方、不祥事に発展したのは映画館での被害だ。8月末にUGCという映画館チェーンのパリ・ベルシー館でトコジラミに刺されたという苦情が客から出て、その後他の客からも苦情が相次いだことで、同館は謝罪したうえで駆除したことを報告。 対応が遅いなどと非難されたが、それほど大きな問題には発展しなかった。
しかし10月初旬、UGCのパリ中央にあるオデオン館・ダントン館の従業員の一人が、客にトコジラミのことを聞かれたら(本当はいるのに)「いない」と嘘をつくよう支配人から命じられたとリークしたことが報道され、騒然となっている。
確かに映画館は暗闇、ふかふかの椅子、人間と、トコジラミの好物が揃っている。でもそうなると、では劇場は?飛行機は?店内は?と疑心暗鬼が止まらない。この疑念と恐怖の連鎖が今フランスを襲っている「トコジラミパニック」なのだろう。
あらぬ疑いで、パニックに
パニックに陥った集団は怖い。政府は「トコジラミの発生には所得水準も衛生環境も一切関係ない」として偏見を徹底的に排除しようとしているが、戦犯探しを完全に止めることはできない。
9月末にはCNewsというニュース番組のキャスターが、移民の衛生環境の不備に言及しながらトコジラミ流行と移民との間に関係があるかどうかゲストに質問したことが大問題になった。
放送行政監督機関(ARCOM)が近々この発言について調査を開始する模様だ。実はこの日から数日間、ウィキペディアのトコジラミのフランス語ページは「トコジラミは移民のせい」としたい派と「そんなことは絶対にない」派の戦場となり、すごいスピードで書き換え合戦が繰り広げられた。
こんなのは極端な例だが、実際のところ、世の中の人はフランスでのトコジラミ大発生をどう思うのだろう。外国メディアも注目しはじめている。
来年のオリンピックまでに何とかしないとフランスのイメージ悪化に繋がりかねない。いまやパリは工事のオンパレードで建物も公園も化粧直しに余念がない。それもこれも来夏の一大イベントを最高の状態で迎えるためだろうが、上ばかり見ずにマットレスやカーペットにも気を配ってもらいたいものだ。
鈴木 なお
フランス在住
『地球号の危機ニュースレター』
No.521(2023年11月号)