「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

いよいよ今年はパリ・オリンピック!  *その1*

photo © 鈴木なお

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開会式の観客数は

 開会式の観客数だが、当初は水辺にある低い岸に10万人(有料)、川を見下ろす高い岸に50万人(無料)の、総計60万人の予定だった。しかしセキュリティー上の問題から数は次第に下方修正され、現時点では水辺に10万人、上の河岸に30万人とされている。

 上の河岸の観覧席は無料で、しかも予約開始は6月の予定なので、今後の状況次第で観客数をさらに減らすのかもしれない。それでも数万人しか入らない競技場で行うのとは比べものにならない大規模な式典となる。

 なお、水辺の有料観覧席の方は、椅子席・立見席、右岸・左岸、出発点近く・終着点エッフェル塔近くなど条件の差もあり、価格帯は90ユーロから2700ユーロまでと幅広い。

 懸念材料の警備の方は、4万5000人の警官・憲兵が動員される模様だ。場合によっては軍隊も出動するかもしれない。街も特別警戒体制に入る。開会式の数日前から、セーヌ川に沿ってパリ東郊シャラントン=ル=ポンから市内西部のポルト=ド=サンクルに至るまでの区間に通過目的での通行が禁止される「ブルーゾーン」が指定される。

 ルーブル美術館やエッフェル塔もこのゾーンに入る。ゾーン内部を通行するには証明書の提示が必要となる。そしてこのブルーゾーンの内側に「レッドゾーン」が設置され、特例以外は通行禁止となる。

 全てのセーヌ河岸、パリ市庁舎、ノートルダム寺院、トロカデロはレッドゾーンだ。さらに開会式当日には、上述のブルーゾーンもレッドゾーンに変身し、凱旋門、シャンゼリゼ、他の隣接地区にも広がって、一帯が通行禁止になる。当局発表の地図を見ると、セーヌ川を中心に真っ赤に染まったベルト状のゾーンが広がる。

影響を受けるのは地域の住民も

 影響を受けるのは地域の住民も同じで、出入りに居住証明書を見せる必要も出てくる。特にスナイパーなどが陣取りそうな川沿いの背の高い建物ではテロへの警戒が強まり、制約が大きい。煽りを受けるのはセーヌ河岸の名物「ブキニスト」も同じだ。

 ブキニストはセーヌ川の石の欄干に固定されて並ぶ緑色のトタンの箱を店舗とし、古本やポスターなどを売っている露店の古物商で、全体で900ほどある箱のうち600が一時移転の対象となった。安全上の理由から大会中の退去が決定したわけだが、観客が開会式をよく見えるようにするためでもある。店主らは、古びた店舗が解体・再設置に耐えられないのではないかと心配したり、オリンピック中の観光客の入りをあてにしていたりで、一方的な決定に猛反発だ。

photo © 鈴木なお
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懸念材料の警備の方は?

 テロについては考え出すと心配が尽きない。最近も12月にエッフェル塔付近で発生したばかりだ。行政やオリンピック組織サイドも実は眠れないほど不安なのではないか。裏では映画「ミッション・インポッシブル」並みの諜報や暗躍が繰り広げられているのかもしれない。

 が、人々の不安という面では、トイレの問題も実は大きいのではないかと思う。この国には、とにかくきれいな公衆トイレが少ない。いや、皆無だと言ってもいい。外出時には飲みたくもないコーヒーを頼んでカフェで用を足すか、トイレのあるデパートまで行って長蛇の列に並ぶという感じだ。数十万人が川べりに集合する開会式で、もしトイレに行きたくなったらどうするのか、近くにきれいなトイレはあるのか、スムーズに席まで戻って来られるのか。そんなことを考えただけで、「開会式は家で、テレビで見よう」という気持ちが固まる。周囲の女友達はみんな同じ考えだ。

 ところで、オリンピックについて書くとあってパリの街をうろうろしてみたが、年初の時点では、五輪旗やJO2024という立て看板が街を覆いつくすというのからは程遠い。さすがにパリ市庁舎は派手にオリンピック装飾を施されていたが、それ以外は、本当にここで夏にオリンピックがあるのか?という感じだ。

 ただ、街のあちこちで工事や改修が行われているので、夏に雄姿を見せようという意気込みは感じる。

 オリンピックには間に合わないものの、年末に一般公開の再開が予定されるノートルダム大聖堂の修復工事が急ピッチで進められていて圧巻だ。2019年4月の火災で尖塔までもが焼け落ちた後、マクロン大統領は5年以内に再建すると宣言した。当初は「あり得ない!」と鼻で笑われていたが、先日には尖塔がしっかり再現された。年末のミサは本当に実現しそうだ。

 あちこちにご自慢の歴史的建造物があるパリ。それをセーヌ川に沿って堪能してもらおうとするオリンピック開会式。でも川沿いにない一級品はどうしたらいいのか。もちろんこれも計算済みで、8月28日のパラリンピック開会式は、シャンゼリゼ大通りを行進した後、コンコルド広場で開催される。 ちなみに閉会式はオリンピック、パラリンピックともにパリ北郊のスタッドドフランス競技場で行われ、「式は競技場で」というオリンピックの伝統に戻る。

鈴木 なお

フランス在住

『地球号の危機ニュースレター』
No.524(2024年2月号)

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