岡部 一明
最初はキャンプ生活
ナミビア奥地、「サン族の首都」ツムクェ村には1ヶ月超滞在した(2024年5月23日~6月28日の35日間)。最初の3日間はキャンプ場での宿泊だった。
74歳の高齢者が、わざわざ無理な生活をするわけはない。予約サイトでは、当該ツムクェ・カントリー・ロッジの1泊170ナミビアドル(1500円)最安部屋は「ベッド6台」と書いてあった。ドーミトリーになっているのだろう、と思って行ったのだが、その料金はキャンプ場のものだと言う。「ちゃんと、自分のテントを持ってくることと書いてあるだろう」とレセプショニスト。確かにそうも書いてある。「ベッド6台」とはバンガローの方だったらしい。
じゃあ、バンガローに代える。いくらだ。「千何十Nドル(1万数千円)」という答。無理!
キャンセル不可という決まりは承諾済み。3泊分を棒に振ってもいい、他にどこか安い宿はないか教えてくれ、とレセプショニストに迫る。困惑する彼。
ボツワナ、ナミビアなど南部アフリカには古くからの先住民サン族(ブッシュマン)やコイコイ族(差別的にホッテントット族と言われていた)が暮らし(両者を含めコイサン族と呼称)、ナミビア北東部のツムクェ行政区(選挙区)には推計2400人のサン族が暮らす。その中心村落ツムクェは「サン族の首都」とも称される。カラハリ砂漠に近い遠隔の地で、まだ各種文明の恩恵と弊害があまり入っていない。むしろ原始的な暮らしを覚悟してやって来たのだが、その中でこの宿は例外的に高級な宿だった。欧米、南アなど先進諸国からの旅行者をターゲットにし、料金も先進国並み。予測が甘かったと言わざるを得ない。

ツムクェの高級宿カントリー・ロッジ。この村でbooking.comなど予約サイトに載っている宿はここだけ。伝統的家屋の雰囲気を失わない建築様式を維持している。利益はすべて先住民の生活向上に提供されるとのこと © 岡部一明

ツムクェ村の地図。Map: OpenStreetMap, CC-BY-SA 2.0
親切なスタッフたち
仕方ない、キャンプ場で野宿するか、と思っていると、そのレセプショニストのネルソン君と、奥に居たカリンさんが素晴らしい対応をしてくれた。「貸しテントがないか探してみる」とネルソン君。「私のテントとブランケット、マットレスがあるので貸してあげる」とカリンさん。え、それは恐縮してしまうじゃない。
「いいから、あんたはここで待ってて」と言われて、宿の小ぎれいなレストラン兼バーで待つうち、たちどころにキャンプ場の方に近代装備のテントを立ててくれた。中には立派なマットレスの上に厚いブランケットとカバーがしつらえてある。昼は暑いが、夜、かなり寒くなるという。ジャンパー着てその辺に寝る、などという私の判断はとんでもない、と言う。
いやはや、もう感謝感激。深く感じ入るばかりだ。なんで?どうしてこんなに親切なの、と聞くと、ネルソン君は「高齢者が困っているときに助けなかったら悪徳でしょ。私たちのコミュニティではそうです。」
なるほど、ここでもまた「高齢者」であることで助けられた。さすが伝統社会ツムクェに生きる人々だ。ネルソン君は、年寄りがよくまあ有料ヒッチハイクでここまで来たもんだと感心し、旅の目的などを聞いてきた。サン族に興味がある、人類は皆アフリカから来ている、など私が御託を並べる。ネルソン君はますます感心して、「私はナマ族だ」と言った。