南半球は銀河が美しい
北極星のような明るい星が北西の空に見える。だが、北極星ではないだろう。シリウスか。全天で最も明るい星。北半球では南の空、オリオン座の下の方に見えるが、ここではそれが北方に見えるのだ。
そして南半球の空と言えば南十字星。前にもオーストラリアなどで見ているのですぐわかった。天の中空、天の川に近いところでまたたいていた。
そして何といってもその天の川、銀河だ。銀河系の中心は南半球からしか見えない。北半球の銀河は外縁部分の方で、あまり輝いていない。しかし、こっちの銀河は見事だ。国境検問所の照明灯がまぶしいが、それでも中空を横切り、雲のように見える。何千億個という星が、つぶつぶには見えず、雲になってしまっている。個々のつぶつぶが見えないのに、なお全体としてぼんやり見える。
おお、あの天頂あたりが一番ぶ厚いな。あそこが銀河系の中心か。そこから星の円盤が空全体をめぐり、さらに地球の裏側にまわっている。私たちは、銀河系のやや周辺部からこの巨大な光のアーチを見ている。天の川周辺に特に星が多い。なるほど、遠くでは「雲」になっているが、近くでは個別の星が見えるということだろう。サバンナの灌木が近くでは個別の木に見えるが、遠くでは緑の帯になってしまうのと同じだ。
空を見上げているのではなく、巨大な銀河の地平線を見ている感覚に襲われる。目前を、パノラマのような地平線が傾いて広がっているのだ。本当は、私の立つ地上の方が傾いているのだ、とだんだん理解していく。突如、空間全体が転倒する。あっちが本当の地平線で私は傾いた宇宙船からこの大規模構造を見ている。
人類の気の遠くなるような進化の歴史を訪ね、ルーツを探ろうとアフリカに来た。しかし、それもこの大宇宙から見れば小さい。あの無数の星々の雲の中に一旦出れば、太陽系などどこかわからず帰れなくなるくらいの広大無辺さだ。それでもこのちっぽけな人類は、数百万年の進化を必死につむぎ、その一角に自分たちの存在の証を刻もうしている。
岡部一明
『地球号の危機ニュースレター』
No.533(2024年11月号)