「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

どんぶらこ取材こぼれ話 第70回 岩国は傍聴日和 〜不可解な原発新設と中間貯蔵〜

©山秋真

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山秋 真

 2023年9月21日木曜日、祝島を朝6時45分に発つ定期船「いわい」に駆けこみました。上関町内でも本州に位置する室津(むろつ)で下船すると車に乗りかえ、室津半島の山を越えます。それから瀬戸内海に沿って延びる道を岩国へ走りました。

 目指す先は山口地方裁判所岩国支部。そこで裁判を傍聴するのが目的です。すでにお伝えしているとおり、「上関原発を建てさせない祝島島民の会」(以下、島民の会)は昨秋、中国電力(以下、中電)から裁判を起こされました。その第4回口頭弁論があるのです。

 上関原発の新設を計画する中電が、予定地対岸の祝島の住民たちに対して裁判を起こすことは、これまでにもありました。企業や政府などが、公の場で発言や行動をする住民などに対して、恫喝や嫌がらせのために起こす報復的な訴訟いわゆる「スラップ訴訟 strategic lawsuit against public participation (slapp)」といわれるものの典型例といえるでしょう。

 2016年8月に祝島側の「勝利的和解」が成立したことで、一連の裁判は終結していました。ところが、わずか6年余りで、あらたなスラップ裁判を起こされたことになります。

 9時すぎ頃だったでしょうか、裁判所に着きました。傍聴するには傍聴券が必要です。その交付方法について入り口に掲示されていたので、確認しておきましょう。

 まずは傍聴券の交付に必要な整理券を、午前9時55分から10時10分のあいだにもらいます。10時10分に交付が締めきられると同時に、整理券を持っている人を対象に抽選がおこなわれ、当選すると傍聴券を交付される仕組みでした。交付するのは20枚です。

 パラパラと雨が降りはじめました。ひとまず裁判所の建物へ入ります。そのうち外気をもとめて正門玄関の前へ出て、しばらくたたずんでいるうちに9時半になり、裁判所の北側敷地へ移動すると、整理券を求める人がすでに列を成していました。

 雨は止む気配もなく、しとしとと降っています。折りたたみ傘をひらきつつ、私も列にならびました。じわりじわりと列は延び、ついに最初の列の横に並ぶ2列目もできました。

 待っている途中で、傍聴席が21になったとアナウンスがはいります。一増は歓迎ですが、それでもまだまだ足りません。

 締めきり時刻までに並んだのは67人ほど。そのうち少なくとも6人は、中電さん風の男性の姿でした。前列の人とのあいだに、そこだけ微妙な距離があります。そのひとりへ、祝島から傍聴にきた女性が話しかけました。
「中電さんですよね」

 彼女は長年、非暴力の直接行動で原発を押しとどめるひとりです。現場で顔を見知っているのでしょう。穏やかさを装った硬い声で男性社員はぎごちなく応じていました。

 午前10時30分、裁判所3階の第一号法廷で、中電が島民の会を訴えた「妨害予防請求事件」の口頭弁論が始まりました。ここで「妨害」というのは、上関原発をつくる用地を造成すべく埋めたてる予定の海で、海底を掘削して原子炉の設置許可申請にかかわる調査をおこなおうと2019年秋から数年にわたり中電がたびたび船を派遣したところ、同じ海域で祝島の漁業者たちが操業していたため調査をおこなえなかった、として用いた言葉です。

 この日、裁判はほぼ50分におよびました。その内容を、ここでは2点お伝えしましょう。

 まず、この裁判で中電が訴えるのは「妨害予防請求」のみになりました。中電は当初、「妨害予防請求」と「妨害排除請求」を訴えたのですが、「妨害排除請求は必要ないんじゃないか」と裁判所に言われて中電が取りさげたのです。

 中電は現在、問題の海域へ船を派遣することをしていません。したがって「妨害」と呼ぶ行為が存在しようもなく、ごく当然の判断だと思います。

 また、島民の会の弁護団は、使用済み核燃料の中間貯蔵施設(以下、中間貯蔵施設)をつくりたいと中電が上関町に申し入れた今夏の状況をふまえて、次の点を問いただしました。

「原発新設と中間貯蔵施設の建設は両立併存するのか。するのならば、どちらを優先するのか。そして(この裁判で問題となっている)海域でのボーリング調査をおこなった場合、その調査結果は中間貯蔵施設の建設運営に流用されるのか?」

 この調査は、もしかしたら原発でなく中間貯蔵施設をつくるための調査なのではないか、という強い懸念から、中電に釈明を求めたのです。

 回答するか否かも含めて検討する、と中電は応じていました。けれど、原発をつくる目的の漁業補償や海域ボーリング調査の結果を、中間貯蔵施設の建設計画に流用するとなれば、それは「権利の濫用ではないか」と、島民の会の弁護団は閉廷後に指摘しています。「この点は肝であり、中電が回答しないことは許されない。ぜひ注目してほしい」とも強調しました。

 次回の口頭弁論は11月30日、次々回は2月1日。いずれも開廷時刻は10時30分です。

 もしも傍聴券の抽選に当たらなかったとしても、裁判のあとで近隣の会場にておこなわれる報告会で、弁護団からの報告や説明そして当事者の声を伺うことができます。ご遠方の方も、ご都合つけば迷わず足を運んでみてください。お時間が許すなら、前泊して岩国城や錦帯橋などへも足をのばすと一興。

閉廷後の午後1時からおこなわれた裁判報告会。たくさんの支援者や報道関係者から相次ぐ質問に島民の会の運営委員と弁護団がこたえ、熱気に包まれました ©山秋真
閉廷後の午後1時からおこなわれた裁判報告会。たくさんの支援者や報道関係者から相次ぐ質問に島民の会の運営委員と弁護団がこたえ、熱気に包まれました ©山秋真

*本稿は一般財団法人上野千鶴子基金の助成を受けた取材活動を土台に執筆しています。

山秋 真

『地球号の危機ニュースレター』
No.521(2023年11月号)