「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

フランスでもやがて極右政権が誕生か

フランスでもやがて極右政権が誕生か

@佐藤ヒロキ

ルペンの人気回復は本物か?

 私は欧州連合(EU)域外出身の外国人居住者なので、フランスでは地方選挙であっても選挙権はない。その分、いささか傍観者的にフランスの政治的動向を観察しているわけだが、ルペンの人気回復は正直なところ意外だった。

 マクロンが初当選した2017年の大統領選挙でもルペンは決選投票に進出したが、投票前に行われたテレビ討論会で、場違いな攻撃的態度、事実誤認や不正確な指摘、しどろもどろの受け答え、意味不明な当てこすりなどに終始し、不出来を自陣営からも呆れられる体たらくで、投票を待たずに敗北は決定的になった。こう言っては何だが、テレビ討論会で露呈した愚かしさは致命的で、「すでに終わった人」だったはずなのだが、その後はより責任感をにじませる慎重な言動を優先し、巧みな軌道修正でカムバックを果たしつつある。

 対照的に、マクロンはフランスのエリートコースであるグランゼコールの出身であり、頭が切れるうえに、銀行家として成功した実業での実績に加え哲学的素養もあり、英語に堪能で、ルックスも良い、という万能選手的な政治家であり、申し分なさそうだが、考えてみれば、そのような大統領を頂くことで自分たちの暮らしが良くなったとか、楽になったとは感じられないフランス国民のほうが多数派だろうから、そういう人々の観点に立てば、これらの長所や能力には政治的にたいした価値はないとも言える。

 より凡庸で、短絡的な思考を恥ずかしげもなくさらすルペンは、ステレオタイプな庶民性を労せずに体現することができる強みがあり、昨今のインフレの亢進で購買力の低下に喘ぎ、生活苦を肌で感じる多くの国民にとって、より親しく感じられる存在に違いない。

 マクロンのほうは「豊満の時代は終わった」などと不用意な発言も多く、「(大統領と違って)我々一般国民は豊満など経験した覚えはないが、それはいつのことだろう」などとエリート臭を皮肉られる始末で、フランスの各地を遊説して、住民と直に接し、反対派とも積極的に議論して説得に努めるという勇敢な姿勢にもかかわらず、庶民に寄り添う大統領に変身することはできそうにない。 かといってフランス国民の多くが求めている政治的資質をルペンが体現しているというわけでもあるまいが、現時点で、与党陣営の人気政治家といえば、フィリップ元首相やルメール経済相など、いずれもマクロン大統領に劣らぬエリートコースの出身であり、ルペンの劣等生的な側面はむしろ彼女の強みにすらなりつつあるのかも知れない。

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