山口県上関町の町議会の定例会が9月6日から始まりました。
上関町では、「核のゴミ」とも呼ばれる使用済み核燃料の中間貯蔵施設(以下、中間貯蔵施設)を、着工の見通しもない上関原発の用地内につくる計画が8月2日に急浮上。その建設にむけた立地可能性調査を受け入れると、西哲夫・上関町長が8月18日に表明しています。
ただし、その前にも後にも、住民への説明会や議会などでの議論などは、これまでおこなわれずにきました。その状況で開かれる議会となったため、町長の答弁などが注視のまととなりました。
一般質問がおこなわれた9月13日、議会の傍聴を希望して朝早くから並ぶ人びとの姿が、町役場前にありました。受付けが締め切られた8時までに、その数は50人近くまで膨らんでいます。
とはいえ傍聴券は目下、限定20枚。そこで抽選となったところまでは従来どおりでした。
ところが、抽選に外れても議場の外に設置されたモニターで議会を視聴できるのが近年の常だったのに、その対応が今回ありません。前回すなわち8月18日の臨時町議会の際、議場のある3階のロビーでなく、正面玄関を入ってすぐの1階ロビーにモニターを設置したところ、それを介して議会を視聴する人びとの発する声などで庁舎内の電話が聞き取りづらいなど、支障が生じたからだそうです。
それを聞いた町議経験者が事情を確認したところ、前回は大勢の報道関係者が取材に来たので3階のロビーはその対応にあて、傍聴を希望しながら抽選に外れた人のためのモニター視聴スペースは、代わりに1階ロビーに設けたとか。「ならば、今回は報道関係者の数も前回の半分ほどだから、従来どおり3階ロビーでモニター視聴できる対応へ戻してほしい」。そう要請したものの、受け入れられなかったのだと聞きました。大事な局面にありながら、一般質問の公開に後ろ向きの姿勢は、ちょっと気になります。
傍聴を希望する人びとのそうした様子を、遠巻きにする警察の姿も見えました。こちらは8月18日に勝るとも劣らぬ人数です。
それは町長の心のうちが現れた光景でした。平日に限れば中10日と、前代未聞ともいえる短期間で、しかもお盆のドサクサに紛れて、原子力施設の立地可能性調査の受け入れを独断で回答した町長の、住民たちから予想される反発への不安や負い目なども透けて見えるかのようです。
さて、9月13日は議長をふくめ全10人いる町議のうち7人が、一般質問に立ちました。その7人全員、もれなく中間貯蔵施設の建設計画について質問しています。
町長は、立地可能性調査の容認までのプロセスが拙速ではないかと問われ、「この調査は、上関が適地かどうか、計画はどんなものになるかを、皆さんに説明するために行うもの。住民の皆さんは、その間に中間貯蔵施設について知識を高め、町の将来に必要かどうか判断してほしい」と答弁。
短期間で容認した理由については、調査に関連する交付金を受けるためのスケジュールや中間貯蔵施設の共同事業者となる関西電力からの要請は「一切関係ない」としています。一方で、「調査容認までの期間がながびけば、町民の分断を招きかねないおそれもあった」と主張し、調査容認の撤回は「考えていない」と断言しました。
住民説明会については「できるだけ早く開催したい」としつつも、それは事業者や国の参加が前提で、「国も前に出て、しっかり説明していただきたい」と述べています。両者の調整がつかないと開催できない見通しであることが、答弁から明らかになりました。
住民説明会の内容については、「(安全性に関して)賛否両論の立場の専門家を呼んでやるべきではないか」との質問に「その意見も踏まえたい」と応じる一方、「安全性以外にも住民に説明すべきことはある。そのことを認識しているか?」との問いには終始、町長は答えませんでした。
説明すべきことは例えば、そもそもの経緯や、調査受けいれの決定プロセス、どうして賛否がこれほど分かれる施設の誘致を地域『振興策』の選択肢に入れるのか、地域のイメージ低下につながると周辺自治体の首長たちが懸念する施設の誘致をなぜ地域『振興策』の選択肢に入れるのか等まだまだある、とさらに問いただされても、町長の答弁はやはり噛み合いません。
それでも、「答えていただけていない」と訴える議員の声を、「終わります」という一言で議長は遮っています。
それを目の当たりにした傍聴席では、「(町長は質問に)答えてないよ」、「答えてくれと言うのを、切るというのは……」などの呟きが漏れ聞こえました。
そうした周辺の自治体への今後の対応について問われ、「基本的に周辺市町の理解活動は事業者と国が中心となっておこなっていくもの」と町長は答弁しています。 実のところ上関町内においても、住民に対して町から説明のないなか、事業者である中国電力が「戸別訪問」して説明にまわっていると先月、報じられていました。ちなみに、この「戸別訪問」はポスティングのことを指し、祝島では実施されていません。
これに関して、「例えば企業が自社の製品を説明するとき、デメリットまで細かく話して営業して回るかどうか」と疑問視して「中国電力からの説明も必要だが、それだけでは判断材料として不十分だ」と指摘しつつ、「この中間貯蔵施設を進めたい企業すなわち事業者が説明にまわっていることをもって、住民に対して説明がなされたと見なされると、町長自身が思っているのか」と問い質す議員もいました。
これについても町長は答えていません。
*本稿は一般財団法人上野千鶴子基金の助成を受けた取材活動を土台に執筆しています。
山秋 真
『地球号の危機ニュースレター』
No.520(2023年10月号)