鈴木 なお
フランス人が最も嫌いな月は11月だとよく言われる。理由は「寒い」、「暗い」、「イベントがない」といったところだ。筆者自身も11月は好きではない。「昼が短く夜のように暗い」というのが理由だ。フランスに住むようになり、日本と違って四季の変化というよりも、日の長さの変化に敏感になった。日の長さばかりではなく、陽のある・なしや強弱に、気持ちがリンクするようになった。
一年で一番日の長い夏至の前後は23時頃まで明るく、朝も5時くらいから空が白んで鳥の囀りが聞こえてくる。日々の活動範囲が広がり、服装も軽く、身も心も自由になった気がする。夜遅くまで庭でバーベキューをしたり、朝涼しいうちから青空市場に行くのも楽しい。それに対して一年で一番日の短い冬至の前後は早々に暗くなり、朝もいつまでも日が昇らず、襟を立て、まだ薄暗い中を俯いて会社や学校に向かうのだ。日が短いだけでなく、曇天が多いため、昼だか夜だか分からない日々が続く。今年はフランスの北半分は夏らしい夏がなかったので、余計に冬の到来が辛く感じる。
12月になれば救われる?
冬至のある12月は確かに日がすごく短いが、11月と違ってクリスマスの雰囲気に満ち、人工的ではあるが多少盛り上がってくる。11月のうちからクリスマス・新年のイルミネーションを飾り付ける自治体も多いが、凛とした空気にキラキラとした灯りが映えるのはやはり12月だ。
パリはもちろんのこと、地方の寒村でも村役場や教会を中心に飾り付けが行われる。最近はLED電球を使うので光が何処か冷たく寂しいものに感じるものの、12月に入ると年末のパーティーのことも本気で考えなければならず、落ち込んでいるどころではない。
筆者の義母のように段取りの良い人は秋口にクリスマス・プレゼントを買ってしまうが、やはり間近になってから焦って探す人の方が多く、街はそういう人たちで日に日に賑わっていく。パリの大きな本屋も地方の小さな雑貨屋もクリスマス・プレゼント用のラッピング係を雇う。たいていはセロテープを乱雑に貼って素人未満の出来になるが、包み紙をベリベリに破るフランス人たちにとってはラッピングの美醜はそう大きなことではない。パン屋はクリスマス・パーティー用のおつまみやケーキの注文をとるのに忙しい。肉屋も然りだ。特に去勢鶏(シャポン)はクリスマス定番のご馳走で、注文台帳は書き込みでいっぱいになる。チーズ屋も大忙しだ。洋服や靴の店はやや静かだが、1月初めに冬のセールが始まれば客が溢れる。
年末年始の集いは招く方も招かれる方も物理的・精神的な準備が大変で、ヒステリーを起こす人も多いのだが、家族で祝うクリスマス、友人同士で祝う大晦日が無事に過ぎれば新年で、一連の祭りは終わりだ。日本のお正月三が日みたいなものはなく、あっさりと2日から仕事始めのところが多い。冬至が過ぎたということは、これから日が長くなって行くということで、心の中に薄っすらと光明が差す。
あなたの好きな月は?
だが、ふと手が止まる。皆が同じ思いとは限らないのではないか、と。そこで、たまたま周囲にいたフランスの若手社会人5人にどの月が好きか、どの月が嫌いか、理由とともに聞いてみた。結論を言えば、11月はそこまで不人気ではなく、夏はそこまで人気なわけでもなかった。何より、各人の考えと感性が見て取れて興味深かった。
<パリ在住・20代男性・情報エンジニア>
僕が一番嫌いなのは12月だね。暗く、寒く、嫌な天気で落ち込むよ。クリスマスと新年が嫌いでね。街中のクリスマス・ムードも好きじゃない。クリスマスや新年の時期って、すごく疎外感を覚え、孤独を感じるんだ。
一番好きなのは5月だな。祝日が多いのが最高! 程良く暑く、日が照り、天気が良く、日が長い。まだ夏季休暇ではなく、同僚も友達も誰も出かけていないけれど、でも休暇が近づいているのが感じられて、皆それをわかっていて、すごく楽しい雰囲気だ。
<地方在住・20代女性・デザイナー>
好きな月はどれって、良い質問だわ!そうね、一番好きなのは5月かしら。自分の誕生月だし、何といっても私にとっては5月が一番「春らしい」月なの。もうそんなに寒くなく、気温は上がって来るけれど夏みたいには暑くない。花がたくさん咲いて、私の大好きなスズランやマーガレットも咲くわ。5月は太陽と自然が目覚める月で、私の中では「春」そのものなのよ。
一番好きではない月は2月。クリスマスと新年からもう一か月以上経つし、寒く、日はまだ短く、冬の終わりが見えないから。2月は本当に悲しい気分で、気が滅入る。まるで暗いトンネルが永遠に続いているみたい。2月は一年で一番短い月なのにね。3月になると、まだ冬が続いていてガックリくるけれど、もうすぐ春になるのが見えてきて、気持ちが少し上向くのよ!
<パリ在住・30代男性・軍人>
11月は禁欲的な月だから嫌い。12月はクリスマスがあるから嫌い。1月はいけ好かない連中に新年の挨拶をしなければいけないから嫌い。2月はバレンタインデーがあるのに良いアイデアがないから嫌い(※フランスでは恋人同士が祝う日で、普通は男性が女性にプレゼントを贈る)。3月は、そう、3月だから嫌い。4月はエイプリルフールが好きじゃないから嫌い。5月は僕の誕生日があるから嫌い。同様にクリスマスもプレゼントも嫌いだ。6月は自分が大人になってしまったことを思い知らされるから嫌い(※長い学校休暇はもうない)。7月は暑くて嫌い。8月も同じで、暑くて嫌い。9月は、ここでもまた、もう子供じゃないことを思い知るから嫌い。
10月は好きだな。12月は雪が降るし、友達や家族に囲まれるから好き。1月は月の最初だけは好きだ。2月はバレンタインには悩むけれど好き。3月はやはり嫌いだ。
4月は両親の誕生日があるから好き。5月は祝日のオンパレードだから好き。6月は音楽祭があるから好き。7月と8月は海に行くから好き。9月は本当に嫌いだな。だけど、そう、10月は好きだよ。
<パリ在住・20代男性・AI技術者>
敢えて言うなら、5月や6月が一番好きかな。僕の誕生日があるし、たくさん祝日があるし、もうすぐ夏になるし、天気がいい。みんなも楽しそうだし、日も長くなる。夜はたいてい晴れて星がきれいに見える。なんだか平凡な答えだけど、5月や6月だね。明日には気が変わるかもしれないけれどさ。
嫌いなのは2月や3月だな。誕生月の人には悪いけれど、なんだか何もない月だよね。しかも天気が悪くて寒い。日は少しずつ長くはなってくるけれど、それでも短い。この二つの月は面白みがないから嫌いなんだと思う。
でも、もう少し考えてみるよ。今言った答えは、実は僕が学生の時に感じていたことなんだ。最近は正直なところ、どの月が好きとか嫌いとか考えることもなかった。
<パリ在住・20代女性・ユーチューバー>
私は12月がとても好き。楽しいお祝い事があって、美味しいものが食べられる。雪も降るし、暑くない。そしてもうすぐ一年が終わる。やったー、気分爽快!
一番嫌いなのは1月。やだ、もう、また一から全部やり直し。しかも12月がすごく遠いわ!
フランス人だからといって、デカルト風に理性的な人間ばかりではない。金子みすゞではないが、「みんなちがって、みんないい」。しかも通常、フランス人グループに質問すると大声で一斉に話し始め、お互いに譲ることがないため誰が何を言っているのか聞こえないことが多く、テレビの政治討論会など見られたものではないのだが、こうして個別に質問してみると意外にみんな真剣で、かしこまって回答してくれる様子が微笑ましかった。
今日もどんよりとした暗い朝だ。南仏のダイナミックな日差しや、東京の真っ青な冬空が懐かしい。アメリカの大統領選が終わり、フランス人も気が抜けた様子だが、情け容赦なく月日は流れる。クリスマス料理を作らないと、招待客が来てしまう。
それでは皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください。
鈴木 なお
フランス在住
『地球号の危機ニュースレター』
No.534(2024年12月号)