鈴木 なお
パリ・オリンピックが今年の7月26日から8月11日まで、パリ・パラリンピックが8月28日から9月8日まで開催される。開幕まで一年となった2023年夏頃から加速度的にオリンピック関連の報道が増え、今年に入ってからは俄然「いよいよ」という感じになってきた。せっかく開催国フランスにいるので、今回から数回にわたってパリ・オリンピックを取り上げたいと思う。
一番の話題は開会式?
スポーツそのものはさておいて、今大会で一番の話題は、セーヌ川の上を各国選手団が116隻の船で入場行進するという開会式だろう。当初発表の160隻から数は減ったものの、これは上手くいけば壮観だ。
巨大スクリーン、音響、ライトアップ、ハイテク技術を駆使すれば、さらにすごい演出ができる。パリの魅力を最大限活かすためとはいえ、よくもまあ、これほど大胆な案を思いついたものだ。
そしてさらに驚くのは、テロや戦争の頻発するこのご時世に、その案を本当に実行しようとしていることだ。フランス国内でも開会式の実現は不安視されている。
大規模テロが起きるのではないか、セーヌ川の上でイスラエル代表団が狙われるのではないか、観客がパニックで将棋倒しになるのではないか…。マクロン大統領やスポーツ大臣は最近では「代替案も用意してある」と発言し始めたが、組織委員会はセーヌ川案を貫きとおす構えで、「代替案はない」と言い続けている。
セーヌ川
開会式の行進ルートは、パリの地図を見たときにやや右下にあるオステルリッツ橋からスタートする。周囲はオステルリッツ駅を中心に数年前から再開発が進められ、閑散としてくすんでいた界隈が見違えるようにきれいなオフィス街になり、ルモンド紙の本社も移転してきた。スタート後、シテ島にあるノートルダム寺院と右岸にあるパリ市庁舎との間を通り、ルーブル美術館の長い長い建物に沿ってポンデザール(芸術橋)の下を通り抜け、オルセー美術館やグランパレを眺めながらエッフェル塔の足元まで進む。この地点で下船し、塔の対岸に広がるトロカデロ庭園とその上のシャイヨー宮テラスを終着点とする。エッフェル塔はここから眺めると最も美しいと言われている。
セーヌ川上流から下流へ パリ市内を貫く行進
さて、セーヌ川はブルゴーニュ地方の山中に源流があり、パリの中央を貫き、パリを過ぎてからノルマンディーにかけて幾度も急蛇行し、最後はル・アーヴルとオンフルールに挟まれながら英仏海峡に注いでいる。つまり開会式の行進は、パリ市内をセーヌ川上流から下流へとゆったり進むわけだが、たとえ時間差をつけてスタートするとしても、116隻とはすごい数だ。私もセーヌ川の遊覧船には何度も乗ったが、これほど多くの船が一丸となって一方向に進む様子は想像できない。開会式は20時24分スタートで、いつものようにギリシャが先頭を切り、開催国であるフランスが最後尾だ。23時50分頃、すべての選手団がトロカデロに到着する。フランスの7月末の日没はだいたい21時半ごろなので、世界中の人々に空が刻々と変化して石造りの街の色が変わっていく様子を楽しんでもらうと同時に、ご自慢のパリの夜景をたっぷり見てもらおうという計算だ。プログラムの詳細は「秘密」で、サプライズ満載の夜になりそうだ。