「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

〈アフリカの旅4〉ナミビア首都ウィントフック

ナミビア首都ウィントフックのルーテル教会と独立記念博物館 © 岡部一明

ナミビア首都ウィントフックのルーテル教会と独立記念博物館 © 岡部一明

岡部 一明

ウィントフックのコンビニ店で

 あなたは近くのコンビニに行って、例えば牛乳を買ったとき、店員から、

「私にも何かドリンク買ってくれない?」と言われることはあるだろうか。

 ないよね。だが、ナミビア首都ウィントフックに着いて最初に買い物したとき、店員にそう言われて驚いた。宿近くのコンビニ。バックパッカー向け安宿とはいえ、まわりはナミビア理工大学など複数の大学が集中する文教地区だ。南アでも街で食べ物を乞われることはあったが、そのティーエージャーらしき女性店員は、決して飢えた風でなく、育ちのよい中産階級の少女と見えただけに、なお愕然とした。10回言えば1回くらい本当にドリンクをおごってくれる客がいるかも知れない。しかし、それを言うことでどれだけ自分の尊厳を落としているかわからないのか。

 しかし、その後も街でねだられることは続いた。本当に飢えた人も居るだろうが、そうでなさそうな人からも。これからのアフリカの旅が思いやられる、と最初は思ったが、意外とこちらの人には別の感覚があるのかも知れない。10回に1回本当に何かもらえるならやってみる価値あり、か。「もうかりまっか」と日々挨拶するような気楽さなのかも知れない。

予防注射、マラリア薬、SIMカード

 首都ウィントフックでは「旅の仕事」に集中した。これからの厳しい旅に備えてその土台づくり。黄熱病の予防注射を打ち、マラリアの予防薬を手に入れ、スマホ通信に加入し、遠隔のコイサン族居留地に何とかたどり着く方途を探る。

 黄熱病の予防接種は保健所のようなところで90ナミビアドル(800円)でできた。マラリア予防薬は3か月分で43,515ナミビアドル(37000円)と高い。薬をもらうためには医師の診察を受ける必要があり、その診察代が500ナミビアドル(4300円)。貧乏旅行者には厳しいが、これはけちれない出費だ。ナミビア北部以北からマラリア危険地帯がはじまる。世界で年間60万人がマラリアで亡くなり、その96%はアフリカだ 

 携帯通信はMTC社のSIMカード「Aweh YoData 30」を購入した。初期費用込みで計296.99ナミビアドル(2500円)。1ヶ月に通話501秒、SNS50通、データ25GMまで無料だ。

 南アではSIMカードを購入しなかったが、ナミビアではこれが必須と判断した。街にもWifiがあまりないし、コイサン族に会いに砂漠の遠隔地にも行く。

「サン族の首都」

 コイサン族に関心をもってナミビアに来たからには、「サン族の首都」と言われるツムクェ(Tsumkwe)に行かないわけにはいかない。これ一択だろう。ナミビア北東のカラハリ砂漠周辺に、辛うじてサン族が伝統的生活を保障されながら、ある程度の自治を行なうところがある。オチョソンデュパ地方(Otjozondjupa Region)のツムクェ地区(Tsumkwe Constituency、選挙区の意)だ。人口9000人で、うちサン族は2400人。そのツムクェ地区の区都が人口500人のツムクェの街。小学校、中学校もあり、小さいながらお店、飲み屋、宿などもある。サン族をロマンチックな太古の狩猟採集民とだけ夢想していると真実に迫れない。ある程度の近代生活になじみ、その中で貧困その他現代的問題にも直面する人々として理解しなければならない。

(以後、できるだけ「コイサン」でなく「サン」を使うことにする。部外者が勝手にコイコイ族(ホッテントット)とサン族(ブッシュマン)をくっつけただけで、彼らの間には「コイサン」という意識はあまりない。ナミビア北東部からボツワナにかけては主にサン族の本拠だ。)

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