岡部 一明
前述の通り、南アでのコイサン集落訪問は、交通手段などの面で難しく、一路、北方のナミビアに向かうことにした。ナミビアには「サン族の首都」と言われる北部ツムクェなど、コイサン文化が色濃く残る。
2024年5月12日、南アのメジャーな長距離バス「インターケープ」で、ケープタウンを出た。ナミビア首都ウィントフックまで週4便(水木金日)がある。所要約22時間。料金は変更自由度で3段階に分かれ、Full Flexibleが1350ランド(約1万1000円)だった。
平凡なバスの旅を報告してもしょうがない、とも思ったが、南アからナミビアのバス旅ってどんなものか想像がつきますか。私とてまったく想像がつかなかった。だから、それを報告しておくのも役に立つと考え直した。日本では見られない乾燥地帯の旅だったが、道路もバスもそれなりに立派で、寝心地も悪くなかった。
深夜のナミビア国境で
「Go in front」(前に行け)とバス添乗員(車掌?)に言われた意味がわからなかった。
南アフリカ(南ア)からナミビアへの国境検問所。両国以外の外国人用に別の窓口があるのか。皆が並ぶのを尻目に、ふらふらと「前の」別の窓口を探しに歩いた。でも、何もない。寝入りばなを起こされて頭はもうろうとしている。すると、
「こっち、こっち」とくだんのバス添乗員は私の手を取り、列の前の方に連れてきてくれた。そこにお年寄りが数人居たので、やっとわかった。そうか、あの親切なバス添乗世話係は、気を利かせて高齢乗客を列の前の方に移動させてくれていたのだ。確かに入国手続きで長く並ぶのは大変だ。そうか私も年寄りに見えたか…。
それで思い出した。ケープタウンで長距離バスに乗るとき、停車場の窓ガラスに写った私の姿を見て驚いた。髪が真っ白じゃないか…。まわりにこんなに髪が白い人は居ない。黒人は白髪になるのが遅いらしいし、南アにはまだ若い人が多い。だから白髪は少なく、私は、自分の髪の白さにびっくりしてしまったのだ。
バス旅の国境通過はだいたい深夜になる
それにしても国境を越える夜行バスというのは、だいたい深夜や未明に国境検問を通ることになる。眠いところを起こされ、訳のわからない手続きに長時間並ばされる。気の利くバス添乗員が高齢者を優先してくれたのはありがたいが、それでもやはり皆が終わるまで外で待たされる。南ア出国とナミビア入国で計2時間はかかったろう。そしてナミビア入国検問が終わってやっと眠れると席に着いたら、また降りろという。今度は、巨大なクレーンのようなスキャナーで大型バス全体を透視にかけるという。その間ずうっと外に待たされ、私は夜空を見ている他なかった。