2023年6月6日、ある住民監査請求書が山口県へ提出されたと報じられました。提出したのは市民団体「上関原発用地埋め立て禁止住民訴訟の会」のメンバーです。中国電力(以下、中電)が山口県上関町に計画する原発新設のために2008年10月に県から取得した海の埋め立て免許について、失効時期が到来したあとも延長を許可した一方で、原発本体の着工時期を見通すことができるまで埋め立てに着手しないよう中電に要請したことは、合理性がなく違法だとして、許可を出すまでにかかった費用の返還を県に求めるものでした。
もしかしたら、原発を新設することと海を埋め立てることのつながりや経緯など、やや分かりづらい方もいらっしゃるかもしれません。少し説明を補足しておきましょう。
上関原発の建設予定地である山口県上関町の田ノ浦は、山が海に迫る入り江です。そこで事業者は、山を削って平地にしつつ、それによって出た土砂でその前の海を埋め立てて、用地をつくろうと計画しています。そこに原子炉2基を設置するというのです。
そのために必要な免許(公有水面埋立免許)を、前述のとおり事業者は県から取得したのですが、田ノ浦の対岸に浮かぶ祝島を中心に周辺地域や広域の人びとから計画への異論が続出。現場で声を上げてあらがう姿も多く、埋め立て工事は進みませんでした。
そして2011年3月、東日本大震災と東京電力の福島第一原発事故を受けて工事は中断。進捗率0パーセントのまま、2012年10月には免許の失効時期を迎えたのです。3.11以降で県知事の任にあった二井関成および山本繁太郎(故人)の両氏はともに、この埋め立て免許は事業者から延長の申請があっても認めないと公言したため、そのまま失効する見通しとなっていました。
ところが現実には、失効しなかったのです。失効の直前に事業者が延長を申請し、県は、その申請に関する補足説明を繰りかえし求めては、事業者からの回答を(ときに1年でも)待って、判断を先送り。遂に2016年8月、免許の延長「許可」へと一転しました。
それ以降、多少の変化はありつつもほぼ同じパターンで、2023年現在まで約15年、免許が延命されています。この状況を放置したら、免許制度の骨抜きを招くかもしれませんし、法治主義も根腐れしかねません。
それでも、この6月6日の住民監査請求を、山口県の監査委員は6月10日付で却下したと報じられています。2014年2月に就任した村岡嗣政県知事を相手に、とうとう裁判が始まるのでしょうか? これからますます注視が必要になりそうです。
いっぽう、上関原発計画をめぐって事業者が地元の住民団体「上関原発を建てさせない祝島島民の会」(以下、祝島島民の会)を訴えた裁判では、6月8日に3回目の口頭弁論が行われました。
約90人もの人が傍聴を希望して山口地方裁判所岩国支部へ詰めかけたと聞いています。現在の日本の裁判では法廷で傍聴できる人数に制限があるため、全員が傍聴席に座れたわけではありません(リモート会議などが一般的になった現在、プライバシーへの配慮等が特に必要な事件を除き、法廷でのやりとりは原則としてオンラインでも傍聴できるようにしてはどうかと個人的には思いますが)。それでも、口頭弁論が終わってから裁判の報告会が別の場所でおこなわれ、100人ほどの人が集まったとか。その報告会はオンラインでも配信されたため、会場へ伺うことの叶わなかった私も耳を傾けることができました。 弁護団からの報告によれば、裁判所はこの日、祝島島民の会と中電に対して、検討してほしいこととして次の3点を示したそうです。
1)(工事をする際に中電は県から一般海域の占用許可を得ることが必要だろうに、それを得ていないことが判明したため、そのような)現段階で、祝島の漁民の漁業権について、どのような主張をするのか?
2)2014年和解にもとづく妨害予防請求を、どうするのか?
3)社団である祝島島民の会が妨害をしていることを積極的に裏づける事実はあるのか?
いずれも双方が検討して、次の期日までに明らかにすることになったというから、引きつづき要注目です。ちなみに次回は9月21日(木曜)午前10時半から、山口地裁岩国支部にて予定されています。
山秋 真
『地球号の危機ニュースレター』
No.518(2023年8月号)