「地球号の危機ニュースレター」535号(2025年4月号)を発行しました。

フランスの自動車免許

© 鈴木なお

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鈴木 なお

 フランスで自動車免許を取るのは難しいとよく言われる。日本の運転免許試験合格率は警察庁の発表によると2023年に76.8%で、近年ずっと7割台が続いている。それに対してフランスの合格率は2023年に学科で53.4%、実技で55.9%(普通自動車免許)に過ぎない。とはいえ、日仏両国の免許取得に至るまでの道は同じではないので、合格率だけ比較してみても仕方がないのかもしれない…。

最近取得したフランス人曰く、「まず学科試験が難しい」

 そこで、ごく最近普通自動車免許をとったフランス人に経験談を聞いてみた。開口一番、「学科試験のハードルが高かった」とのこと。上述した合格率を見れば、学科試験で半分が落ちている感じだが、いったいどのような試験なのだろう。

 試験は40問のうち35問以上正解しなくてはならない。各設問の問題文はビデオや写真を見ながら読み上げられ、画面上に文字で表示もされる。30分強の間に40問出されるので、考える時間はあまりない。そして問題なのは、4つの解答候補の中から選ぶ選択方式なのだが、正解が1つとは限らないことだ。正しい答えをすべてチェックしないと、点はもらえない。フランス人にとってもかなり難しく、フランス語が完璧ではない外国人にはさらに酷だという。

 学科試験に向けてはオートエコール(自動車教習所)で勉強できる。受講料は、たいてい300ユーロ(約48000円)くらいだ。教本を買ったり、インターネットを使って独学もできる。学科の受験料は30ユーロで、仮に落ちてもお金さえ払えば何百回でも受けられる。受験会場は全国各地にあり、たいていは(なぜか)郵便局が会場だ。会場では、十数人の受験者が一斉に大きな一つの画面を見たり、各人にタブレットとイヤホンが配られたりして試験が行われる。結果は24時間で出る。

運転の練習はいきなり路上で

 実技の練習はというと、最初から路上に出る。運転席に座らされ、普通の道路で「はい、ペダル踏んで」と言われる。日本のような塀に囲まれた学校はないのだ。だからだろうか、たいていは実技練習に入る前に学科試験に合格することを求められる。怒られたり諭されたりしながら、試験まで最低20時間乗る。運転の様子を見ていて、教官が「受かりそうだ」と判断した段階で、生徒は実技試験を受ける資格を得る。学科試験とは違い、受験者が好きに試験を申し込めるわけではなく、教習所が申し込む。試験は無料だ。

 なお、パリを中心に大都市では免許を取りたい人間が山ほどいて、教習の予約をとるのも大変ながら、試験枠に空きがなくて候補者が列をなしている状況だ。

 しかも2024年に年齢が1歳下がって17歳からの免許取得が可能となり、潜在候補者の数がさらに増した。そのため一度落ちると次の試験まで何カ月も待たなければならないことが多く、仕事の上で急いで免許が必要な場合などは悲惨だ。

 日本みたいな合宿免許システムがあればいいのだが、それはない。代わりといってはなんだが、地方に住んでいる家族宅に仮住まいして、受験者も少なく道路も混んでいない田舎で免許取得に励む者もいる。

 試験に受かったら免許証の発行を申し込む。1カ月ほど待たないとできあがらない。かつての免許証はピンク色の紙でできた三つ折りタイプのもので、一生そのまま使えたが、2013年からクレジットカードのような写真付きプラスチックカードになり、15年ごとに更新手続きがある。更新といっても、講習もテストも健康診断も要らず、単に住所を再確認して写真を新しいものに変える行政的な手続きだ。

 免許をとるのに今はだいたい1800ユーロ(約29万円)ほどかかり、フランスでは「高過ぎる」と批判が出ているが、免許は死ぬまで有効なので、投資としてはコスパの良い部類だと思う。

15歳から運転を始められる

 ところで、このようにオートエコール(自動車教習所)頼みではなく、15歳からどんどん練習をして免許をとる手段もある。それがconduite accompagnée(付き添い運転)という方式だ。学科試験に合格し、教習所で先生が“良し“とするまで20時間習った後、教習所ではなく、付き添い同乗者に隣に座ってもらい、最低1年以上かけて実地で運転を学んでいく。

 時間もたっぷりあり、瞬発力のある若い時に、運転をしっかり身に着けていく。付き添い同乗者は最低5年の運転経験がある免許保有者に限られており、たいていは親だ。いつ、どんな道で、どのくらい運転したかをノートしながら最低3000km運転した後、教習所に戻り、そこで実技試験のために改めて数時間練習する。

 実技試験は普通の受験者と同じに17歳にならないと受けられず、試験内容も同じだが、試験官に今までの運転経験(書き溜めてきたノート)を見せる点が違う。そして付き添い運転方式の受験者の合格率はかなり高い。

  フランスの免許は12ポイント制度で、違反したりするたびにポイントが引かれていくシステムになっているが、付き添い運転の受験者は実技試験に受かった後、即座に6ポイントをもらい、毎年3ポイントもらえる。つまり2年で満点の12ポイントに達する。なので「A」という初心者マークをつけるのは2年間だけだ。一方で付き添い運転ではなく教習所だけで学んだ普通の受験者は、試験に受かった後、即座に6ポイントをもらえるが、毎年もらえるのは2ポイントだけ。つまり満点の12ポイントに達するまでの3年間、初心者マークをつけなければならない。付き添い運転方式で合格した人の方が、運転技術が上とみなされるのだ。

フランスの運転界、「あるある」

 最後にフランスの運転に関してよく聞く話を3つ紹介しよう。一つ目はフランスにおける無免許運転の多さ、二つ目は保険未加入者の多さ、三つ目は運転マナーの悪さだ。

 報道によると、2019年時点でフランスの無免許運転者(そもそも免許がなくて運転+免停なのに運転)の数は77万人いるとされ、その数は10年前の30万人より大幅に増えた。無免許運転者が全国のドライバーに占める割合は1.5%ほどなるわけだが、事故の4.5%に絡んでいるとされる。

 2020年には無免許運転が絡む事故で220人が死亡した。無免許運転は「免許取得はお金がかかり過ぎる」、「一旦免停になるとそれが解けるまでに時間がかかり過ぎる」ため増えているのだと言われるが、無免許ではどうやら乱暴な運転や、麻薬摂取や飲酒しての運転が多いらしく、「免許なんて煩わしくてやってられん!」という精神性が共通項なのかもしれない。

 保険未加入者に関しては、無免許なら入りようもないが、「お金がかかる」という理由で自動車保険に入らない人が増えているそうだ。特に若者の割合が多いという。最近の調査でも、フランス人の約3割の人は、料金が高いために自動車保険に入りたくないと回答している。

 ただ問題は、そういうドライバーが事故を起こしたときだ。フランスではよく道端で事故車2台のドライバーが大声で罵り合っている姿を見るが、保険がなければ一層トーンもあがるだろう。

 最後の運転マナーが悪いというのは、これはもう、道を走ろうものならすぐに「はあ〜?!」という運転に出会うので「よく聞く話」のレベルを遥かに超えている。

 スピード違反、ウインカーを出さない、優先ルールを守らない、センターラインを越えて走る、追い越し際に中指を立てる(強烈な侮辱の仕草)、狭い道ですれ違っても譲らない、やたらにクラクションを鳴らすなど、数え上げたらきりがない。

 しかも大半の人は、車は単なる移動手段という意識から駐車場での停め方なども乱暴で、ゴンとぶつけようが気にしない。毎週末ピカピカに洗車して大事に扱う人が多いという日本人では神経が持たないだろう。

 それでもフランスで車に乗れば、パリからちょっと走っただけで、田園風景が広がり、海あり山あり歴史的建造物ありで歓声だ。しかも地続きのドイツやイタリアはもちろん、フェリーに車を乗せればイギリスにも行ける。

 運転中たとえヒヤっとしたりイラっとしたりすることがあっても、絶景を眺め美味しいレストランに腰を落ち着ければ気分もすっかり収まり、やはり車があると自由でいいね、楽しいね、ということになるのだ。

© 鈴木なお

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鈴木 なお

フランス在住

『地球号の危機ニュースレター』
No.535(2025年4月号)