「地球号の危機ニュースレター」531号(2024年9月号)を発行しました。

インドネシアに水上太陽光発電、東南アジア最大の145MW

シタラ水上太陽光発電所遠望

© 井田 均

現地への行き方を修正

 Shine BnBは水上太陽光発電の現場に近いだけでなく、料金も比較的安価だという私にとっての好条件も備えていた。ここに1泊後、朝めしを取った後、カウンターにいた女性に話しかけた。

 地図を見せながら「この水上太陽光発電所の写真を撮りたい。タクシーで行きたいので呼んでほしい」

 彼女は地図を見て周囲の従業員にインドネシア語で相談する。こちらを向いて「この町にはタクシーが1台も無いので難しい」と言う。「ではどうすれば・・・」

 「ここCianjurから20kmと少し東の方向のClpatatまでバスで移動してください。そこで北へ向かうバスに乗って10km北にあるClpeuncleuyまで行きます。そこでバイクタクシーを捕まえてさらに北の方向へ行けば、あなたが写真を撮りたいと言っている水上太陽光発電所の所まで行けると思います」

 なるほど。そういうことなのか。タクシーで行けば、お金はかなりかかるがルートは運転手任せだが安心だと思っていた。しかしタクシーが1台も無いのでは仕方が無い。

 まずバス停まで移動した。やはり知り合いが運転する車を利用させてもらった。

 日陰で10分か15分待つとかなり大型のバスが来たので乗車した。1時間より長く乗ったと思う。Clpatatに着いた。車掌がバスの目の前に居たバイクタクシーを指差して、「これに乗れ」と言う。Shin BnBの女性の説明によると、ここClpatatから北10kmにあるlpeunceuyまでは再びバスに乗るのだと思っていたのだが、ここでいきなりバイクタクシーだという。なるほど、これも面白いかもしれない。

 バイクタクシーはインドネシアの田舎にしてはかなり上等だと思われる舗装された道路を快調に走った。アップダウンを繰り返しながらも次第に高度を稼いでいった。ほほを撫でる風が気持ち良い。道は次第に細くなる。直線がなくなりカーブの連続になってゆく。或いは30分前後だったかもしれない。もしかしたら1時間かかったかもしれない、やっとバイクタクシーは地図上に私がマークした水上太陽光発電所が見渡せると予想した地点に辿り着いた。

 だがその地点と湖との間にはかなり高い山があって水上太陽光発電所はその片鱗すら窺えなかった。「もう少し先へ行ってみますか」

 湖岸をもう少し走ってもらった。やがてゲートがあり、この湖の管理事務所のようなものがあった。そこにいた若い男性職員とバイクの運転手が話をした。「水上太陽光発電所の写真を撮ろうとしているんだけど」「そう少し先に行ってみたらどうかな」

 この地点ではこの湖、Waduk Cirata(チタラ湖)は大きく細長くくびれている。そこを時計とは逆回りに左方向へ回った。しばらく行くと、茂った樹木の間から遠くの湖上に太陽光のパネル群が遠望できた。

 「ああ、やっとあった」。口に出して言ってみた。小さな食堂のような店の近くでバイクに停車してもらい2枚の写真を撮る。さらに少し行った所でも降りて数枚の写真を得た。圧倒的な輝く太陽の下、左右2列、各6つずつの巨大な太陽光パネルで形作られた島が並んでいる。キラキラといつまでも光続けている。きれいだな、と思った。

あとは帰るだけ

 さあ、もういいだろう。バイクタクシーには、はじめ乗車したClpatatまで戻ってもらった。数時間の乗車だ。いくら請求されるか。半ば緊張して聞くと300000ルピーだという。日本円で3000円だ。もしかするとこれでも少しぼられているのかもしれないが、最初は4輪の乗用車タクシーで往復40km前後を走ってもらう計画だったし、結果的にもっと遠くまで行ってもらったのだから、それだと数万円では済まなかったかも知れない。

 ClatatからはCianjurまでバスに乗った。Cianjurからはホテルまで、そこいら辺にいた中年男性のバイクに50000ルピー(約500円)で乗せてもらった。

 Shine BnBにもう1泊。その後ホテルの従業員にジャカルタへ帰る方法を相談すると、ここCianjurからジャカルタまで行く直通バスがあるという。それはいい。それにしよう。料金も500円と安かった。だが数時間の乗車後、ジャカルタでバスを降りるとタクシー乗り場が無かった。近くにいた男性に、どこで乗れるかと聞くと、250000ルピー(約2500円)だと言う。私にはここがどこかも分からないが、瞬間的にぼられていると思い、「それは高すぎる」と言って見た。「では200000ルピー(約2000円)」

 まだ粘れる、とも思ったが、ここらで手を打つことにした。それにしてもCianjurからジャカルタまでが500円でジャカルタのバス停から市内のホテルまでがその4倍も取られるなんて・・・。

 車は渋滞の中を走り出した。すぐに目に入ったのは、高架鉄道の路線だった。豊かとはいえない人々が乗るバスだ。安い大衆の乗り物があるはずだ、という事を忘れていた。

インドネシアの再生エネ政策

 インドネシアの再生可能エネルギーの普及は世界に後れをとっている。電源の主力は石炭で、年々その比率を拡大、2020年には6割を超えた62.8%だ。この国で水上太陽光発電所建設の担い手となったPT PLNが公開した電力供給計画でも2030年時点で、石炭火力の比率は59.4%もあると予想している。

 一方アイザワ証券が作成した「インドネシア最新情報」2024.5.24によると、2022年の再生可能エネルギーの利用率はわずか20%に留まっている。ここ数年、再生可能エネルギーへの投資目標を達成できておらず、2023年は目標の82%という低水準だ。世界の再生可能エネルギーは、太陽光や風力の急激な拡大が牽引し、2000年の19%が2023年は30%に拡大しているのに対して、インドネシアは見る影もない。2022年のこの国の太陽光と風力はわずか0.2%に過ぎず、再生可能エネルギーと言われているものの主力はダムによる水力発電である。

 こうした中で、今回見た水上太陽光発電の試みは新しい努力として注目を集めている。このCirata水上太陽光発電所について、この国のジョコ・ウィドド大統領が「我々は東南アジア最大の水上太陽光発電所を建設した」と誇らしげに語ったのも、、これがこの国の再生可能エネルギー拡大の起爆剤になることを期待しての事だと思われる。

 実際20239月に行われたCirata水上太陽光発電所の起工式に先立ち、マスダールとPT PLTは、この交流145MWの水上発電所を近い将来500MWに拡大する契約に署名している。

世話になった人々

 旅行中、私はいろいろな方々にお世話になった。

 最初にジャカルタの空港に到着、電車で市の中心部へ行く時。たまたま隣の座席に座った若い女性に私が下車する予定のBNIシティ駅までの行き方を尋ねた。実際に行ってみたら、乗り換えもあってかなり複雑な行程だったが、たまたま彼女も同じ道順だったこともあって、親切にBNIシティ駅まで連れて行ってくれた。

 次はジャカルタからBogorへ行く時。最初にジャカルタ市内の駅に入る階段の前で私が荷物の扱いに困っていた。その時にその荷物を持ってくれたこれも若い女性。彼女は私がBogorへ行くと知り、その数駅前まで同行、案内してくれた。

 ホテルの案内係の若い女性たちにも、それが仕事とはいえ、どこまでも親切にいろいろ教えてくれた。

 インドネシアの人々の親切心に感謝、感謝。

シタラ水上太陽光発電所遠望

© PT PLN(PT PLNのホームぺージからMr.Imanの許可を得て掲載 )

 

井田 均(市民エネルギー研究所)

『地球号の危機ニュースレター』
No.531(2024年9月号)

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