山秋 真
すでにお伝えしたとおり(第62回「3.11から12年が近づく冬に〜日本の原発政策と上関原発計画の現在〜」、第70回「岩国は傍聴日和〜不可解な原発新設と中間貯蔵〜」など)、「上関原発を建てさせない祝島島民の会」(以下、島民の会)は中国電力(以下、中国電)から裁判を起こされています。2022年12月22日にはじまったその口頭弁論は、この5月29日で13回目を数えます。
この裁判は現在どのような状況なのでしょうか。「祝島島民の会の裁判を支援する会」のSNSによれば、前回の口頭弁論(4月10日開催)で山口地裁岩国支部は、島民の会が申し立てていた、原子力規制委員会に対する調査嘱託の採用を決定したとのことです。
「これは中国電力の申請した上関原発の設置申請が長期間審査されていないのはなぜか、今後審査される見込みはあるのか、そもそも現在の新規制基準のもとで新設原発の設置を審査できるのかなどを原子力規制委員会に問うもの」であり、「大きな成果、前進」だと、島民の会の弁護団の中村覚弁護士は説明しています。
この日の口頭弁論後に別会場で開かれた報告会は、SNSで中継もされました。それをもとに以下にもう少し補足しておきましょう。
上関原発の設置申請は、原子力規制委員会に中国電が出しているものの、事実として10年以上、審査が進んでいません。普通に考えれば、これはもう審査されないのではないか、と思うところでしょう。中国電が申請を取り下げるか、あるいは「不許可」という処分が出るのではないか。「…長期間にわたって審査がされない、つまり、それによって埋め立て工事もできない、そういう状況で、埋め立て工事をする権利、公有水面埋立権に基づいて妨害予防(を請求する)というのは…権利の濫用」だと、弁護団は主張しています。
その点を解明するために、中国電が原子力規制委員会に出している申請は今どうなっているのか、なぜ審査会合が開かれていないのか、当事者である原子力規制委員会に聞くしかないと、調査嘱託の申し立てを島民の会の弁護団がしたのだとか。
さらに中村弁護士は次のように話しました。
「今ある新規制基準—福島県にある東京電力の原発事故が起きて以降、原子力規制委員会という組織が立ちあがり、原発の再稼働をするための新しい基準ができ、それに基づいて全国の原発の審査が行われてきています—は、既存の原発を再稼働するときの基準であり、原発を新設するときの基準ではないのではないか、という疑問があります。これは元山口県議の戸倉多香子さんたちが経済産業省へ行って質問するなかで、経産省の担当者が『今の基準は再稼働の基準であり、上関の原発を新設するときの基準ではないんです』という回答を得ていますし、そういう報道もあります。となると、いくら待っても審査はされません。審査をする基準がないわけですから。だとするとますます、それは権利の濫用にあたるので、その点をはっきりさせてくださいと、調査嘱託の申し立てをしていました」
それでも調査嘱託は「必要ない」というのが中国電の意見だったということですが、裁判所はこの日、やはり原子力規制委員会にこれを聞く必要があるとして、正式に調査嘱託が採用された、ということでした。
それを受けて今から、「調査嘱託に回答してください」という文書が、岩国の裁判所から原子力規制委員会へ正式に送られるそうです。それを受けとったら原子力規制委員会が回答書を書面でつくり、裁判所へ送りかえす、という流れだとか。
弁護団は「どういう回答になるか、予断は許さない」としつつ、「中国電の行おうとしている海上ボーリング調査が、法律的にはまったく成り立たないものになるということを、ひきつづき主張していく」ということでした。
中村弁護士のお話に名前の出てきた戸倉多香子さんは、2011年から3期12年にわたって山口県議を務めたあと、この裁判の報告会でも司会を務めるなど、現在も日ごろから現場で動いてらっしゃる方のおひとりです。その戸倉さんが、この夏の参院選山口選挙区に立候補する意向を固めたと、4月下旬に聞き及びました。
ただし、党の公認を得られるかどうか、なかなか決まらない状況のようです。2024年秋の衆院選山口2区に立候補して国会へ戻った平岡秀夫衆議院議員が、その前年の衆院補選で、やはり党の公認が難航したため最終的に無所属で立候補したことを想起しました。
戸倉さんも同じように、無所属での立候補も辞さない決意を表明なさっています。3.11 以降の上関の原発問題をめぐって厳しい局面となるたび、議会で質問したり現場へ駆けつけたり、多方面で行動力を発揮してらした元県議さん。その重い決断を本稿の最後に読者の皆さまと共有させていただきます。

2022年秋、上関町長選の告示日に駆けつけた戸倉多香子さん=右端©山秋真
山秋 真
『地球号の危機ニュースレター』
No.537(2025年6月号)