「地球号の危機ニュースレター」539号(2026年1月号)を発行しました。

〈アフリカの旅9〉先住民サン族自治の仕組み

多くのサン族が住むツムクェ村の中心部 © 岡部一明

多くのサン族が住むツムクェ村の中心部 © 岡部一明

伝統的土地への権利

 1990年に独立を達成した当時のナミビアには理想主義的な空気があった。独立闘争を戦った南西アフリカ人民機構(SWAPO)の新政府は、アパルトヘイト下にあった土地制度の改革に着手。そこでツムクェ地区で進められていた改革事業が重要な役割を果たした。独立の翌1991年に開かれた土地改革・土地問題会議(Land Reform and the Land Question Conference, held in Windhoek in June-July 1991)で、ツムクェの活動家たちは自らの実践と先住民の視点を積極的に提起した。

  SWAPO政府は当初、例えば5ヘクタールずつなど土地の平等分配を行なう方針をとった。しかし、ツムクェのサン族は、伝統的な共同的土地利用の実践を進めており、別のやり方を主張した。居住地、小規模農地、狩猟採集地などが適切に配置されたサステナブルな伝統的共同的所有地ノレ(n!ore)を単位に土地への権利を回復する方途を求めた。

ツムクェ村の伝統的家屋 © 岡部一明

ツムクェ村の伝統的家屋 © 岡部一明

拡大家族のような村

 ニャエニャエ保全区では、住民のほとんどが、広大なサバンナに散在する区内38の小村に住んでいる。それぞれがそのノレに対応する村だ。村人はほぼ一つの拡大家族で、2550人で構成される。かつては各ノレは、そうした村が狩猟採集で生活を維持できる十分な野生動物、植物、水が確保される面積だったという。部族的性格の強い村で、基本的に他の人々は住むことができない。「ノレに住む権利は両親から受け継がれるが、婚姻により他のノレの居住権も得ることはできる。ジュトアン人はこのノレ制度を現代的な状況に適応させ、今でも土地分配と資源利用の基礎にしている」とのこと(資料1p.96)。

サン族の伝統的家屋。ツムクェ北方のカホバ集落で © 岡部一明

サン族の伝統的家屋。ツムクェ北方のカホバ集落で © 岡部一明

 こうした伝統的自治を維持する努力の中で形成されたのが、地域住民参加型の自然保護機関「保全区」(Conservancy)だった。1998年に発足したニャエニャエ保全区(Nyae Nyae Conservancy)はナミビア初の保全区であり、この形態の環境保全制度がやがて全国に広がっていく。

保全区(コンサバンシー)

 行政区としてのツムクェ地区(選挙区)には東部にニャエニャエ保全区(Nyae Nyae Conservancy)、西部にナジャクナ保全区(N‡a Jaqna Conservancy)の2つがある。ツムクェ集落自体はニャエニャエ保全区に囲まれているものの、保全区には属していない(域外)。しかし、同保全区の機関を含めて重要政府機関のほとんどがここに事務所をおく。 

 ナミビアでは国土面積の17%が国立公園と何らかの国立保護地区になる一方、20%がこうした保全区の管理下に置かれている。全国に82の保全区があり、ニャエニャエ保全区(約9,000平方キロ)が、前述の通り最古。

ナミビアの自然保全地域地図。オレンジ色がニャエニャエ保全区。濃いこげ茶色が国立公園など「国立保護地域」で、茶色系統が保全区。緑は森林区など。詳しくは凡例参照。Map available via CC BY 4.0, in Selma Lendelvo, Helen Suich, John K. E. Mfune, “Stakeholders' Perceptions of the Outcomes of Translocated Eland in Nyae Nyae Conservancy,” Frontiers in Conservation Sciences, May 2022, p.4.

ナミビアの自然保全地域地図。オレンジ色がニャエニャエ保全区。濃いこげ茶色が国立公園など「国立保護地域」で、茶色系統が保全区。緑は森林区など。詳しくは凡例参照。Map available via CC BY 4.0, in Selma Lendelvo, Helen Suich, John K. E. Mfune, “Stakeholders’ Perceptions of the Outcomes of Translocated Eland in Nyae Nyae Conservancy,” Frontiers in Conservation Sciences, May 2022, p.4.

 保全区は住民組織でありながら、政府からの認定を受け半ば公的な役割を果たす自治組織だ。国の政策としてトップダウン的に自然保護を行うのでなく、また、単に自然保護のみを目指すのでなく、住民参加型で、その生業活動にも配慮しながら、サステナブルな自然との共存を目指すアプローチと言える。 

 こうした住民参加型の「コミュニティを基礎とした自然資源管理」(CBNRMCommunity-Based Natural Resource Management)は1990年代当時から、自然保護の世界的潮流となっており、豊かな野生生物資源を持つアフリカ地域でもこの種の法制度を整える国が増えていた。ツムクェの先住民運動もこの流れの中で、その時代に特徴的な法的枠組みを活用して先住民の権利拡大を図ったということができる。

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