猛獣と会ったらどうするか
キャオ君には「ビッグファイブ」も出ると脅かされた。万一、象など野生動物に出会ったらどうするか、宿に帰ってからいろいろ勉強した。とにかく近づかない、刺激しない、決して背を向けて逃げない、目を向けたままで後ずさりする、両手を頭の裏にかけたり衣類をかざしたりして自分を大きく見せる、早朝や夕暮れを避ける、道路から出ないようにする、などなど。ま、ライオン、チーターの類はほとんど遭遇することはないと言うが。
翌2日目、サイクリング耐久レースとなった
翌6月5日、出直しリビング・ミュージアム行き。今度は自転車で出発だ。朝8時前に宿を出る。あまり早すぎると早朝の野生動物活動時間とかち合う。ある程度太陽が昇ってからがいい。
昨日同様、有料ヒッチハイクをする村人たちが10人以上、例の村はずれの木陰の待機場所に集まっている。「よう、ハイクか。がんばれよ」と声をかけて私はまっすぐ北を目指す。
その中の一人の老人が必死に私を追ってきて声を上げた。止まれと言っているようだがよくわからない。行くのは無理だと言っているのか。入場料は払ったのか、と言っているのか。それなら昨日払った。無視してどんどん先に進む。
村を出てすぐ、これは大変な行路だということが分かった。砂地が多い。それがずっと続いて、まるで砂丘の上を行くようなところもある。もちろん自転車はこげず、降りて自転車を押していく。押して進むのさえ大変なくらいだ。
特に、ツムクェ村に近いあたりにこうした砂道路区間が長かったようだ。23キロの中ほどまで来るとむしろ普通の砂利道が多かった。村近くの数キロは、帰りにはぐっと体にこたえる難所となったが、行きはよいよい、元気のある開始直後の勢いで突破した。
野生動物に注意
それよりも最初は、危険な野生動物を恐れた。路肩や周囲のブッシュには近づかない。休む時も道路の真ん中で休む。ブッシュの影から猛獣が飛び出してくるのを恐れたわけだ。道路を走る猛獣、つまり車は、幸いほとんど来ないので無視できる。
できるだけ近くにブッシュのない視界の開けた場所で休むようにした。日陰を求めて木の下に停まるのも避けた。木の上に棲息する猛獣が居るし、意外と毒蛇なども木の上に居るという。
結局、取り越し苦労だったかのだが、必要な警戒を怠ってはならないだろう。実際、砂道路の上にはいろんな動物の足跡が付いていて、巨大な像が横切ったのがわかる足跡も各所で見た(巨大な糞も)。
時速5~6キロ
砂地でなく砂利道になったら喜ぶ(少なくとも自転車に乗れる)ような道路では、時間がかかる。結局、時速5~6キロで進んだことになった。歩く速度とあまり変わらない。ごくまれに、前の方に歩く人が見えても、なかなか追いつかないのももっともだ。いや、歩いている人が一人でもいれば(だいたい複数で歩いている)、そうかここは人間が歩いても危険はないところなのだな、とわかって安心する。
グーグルマップで場所を確認しながら、8時前に出て時速5~6キロで12時過ぎくらいには着くだろう、と計算でき、それで何とかモチベーションを維持した。リビング博物館はちょっとだけ見て、すぐ引き返せば、明るいうちに帰れる、と自分を安堵させる。
出発して3時間くらいしたとき、後ろから村人をたくさん乗せたトラックが通った。23キロを行く中、リビング博物館方向に行く車はこの1台だけだった(北から村方向に来る車は5,6台来た)。少なくとも3時間待っていれば私もあの「ハイク」に乗れたのだな、とわかった。こっちも手を振るし乗客たちも歓声を上げて手を振ってくれた。
あとはただひたすらこぐ。「予定通り」12時半くらいにリビング博物館に着いた。

村を出てすぐこんな標識があった。カウダム国立公園内のシケレティ・キャンプ場まで60キロ。ナミビアに12カ所ある国立公園の一つ、カラハリ砂漠周囲の野生動物が豊富な自然保護地域だ。リビング博物館は、そこに行く途中にある © 岡部一明

象が道路を横切ったことがわかる足跡。大きな足跡なのですぐわかる © 岡部一明

このような砂丘を行くような箇所も。いろんな動物の足跡がつく。象の足跡もあるが、これは道路に沿って歩いて行ったような足跡だ。サバンナでは砂地が多いので、足跡がよくわかる。私もサン族の人たちと同じような足跡をさぐる能力を身につけ始めたか © 岡部一明

沿道に沿って一つだけ村があった。Om!o!oの村。ツムクェと違ってニャエニャエ保全区内の村は伝統的統治機構に従いサン族だけが住める村だ © 岡部一明

23キロを4時間半かかってやっとリビング博物館の入り口に到着。この周辺にカホバ(//Xa/hoba)の村があり、その村人たちがこのリビング博物館を立ち上げたようだ。この入り口から左に500メートル入ったところに同博物館がある © 岡部一明

「ジュホアンシ・リビング・ハンターズ博物館」(Living Hunters Museum of the Ju/Hoansi)。作棟棟と土産店舗(手前) © 岡部一明


