「地球号の危機ニュースレター」538号(2025年12月号)を発行しました。

〈アフリカの旅8〉サン族伝統村落へサイクリング

遠隔の村にあるサン族屋外博物館 © 岡部一明

遠隔の村にあるサン族屋外博物館 © 岡部一明

私が大男になる

 サンの人たちと立ち話をすると、165センチの私が大男になって困る。上から見下ろすようにしゃべっては悪いだろうと腰をかがめたりする。こんな配慮、アメリカではもちろん、日本でもあまりしない。私の方がそういう配慮をされる方だったのかな、などと思う。

 キャオ君は、通勤なのにやはり「ハイク」だ。しかし、北方向の道路はカウダム国立公園に行く道なのにあまり車が来ない。私がツムクェに来るとき通った「やや幹線」のC44号線でも250キロ走るうち10台程度しかすれ違わなかった。この北に向かう道はなおさらの地方道だ。

村のコミュニティー

 それから(私が方針転換するまで)1時間は待ったり近くの友人の家に行ったり、ブラブラして時間をつぶしていた。「通勤」なのに、来る車まかせ、運まかせの移動なのだ。

 「別に勤務時間は決まってないから大丈夫なんだよ」と言いながら、キャオ君はまず、近くの友人の家に連れて行ってくれた。車が来れば遠くからでもわかるから別に待合場所に居なくてもいいらしい。友人の家の庭で世間話をしている。

 「あなたはその辺にかけていて」と木の株のイスに座らせてくれた。近くに野外のいろりがあり、何か鍋で煮物をしている。庭、というより家の周りがサバンナなんだからみんな庭のようなものだが、そこで子どもたちが数人、手押し車に乗ったりして遊んでいる。友人の妻という女性と男たち数人が世間話に花が咲く。やや離れたところにイスをかけている初老の女性は、静かにウィスキーの小瓶に口をつけている。まだ午前中だというのに。サン族の間ではアルコール依存症が問題になっていると聞いた。彼女もそうなのだろうか。

 しばらく時間をつぶした後、今度は村のお店に行った。私がいつも買い物をしている村一番の「ミニスーパー」だ。いつも店の前でサン族の人が腰かけてだべっているが、今は私もその中に座らされて時間をつぶしている。こうしてサン族の仲間に連れられてあちこち行くと、私も彼らの中に入れるからいい。外からの旅行者として奇異の目で見られず、彼らの日常を内側から眺めていられる。

ツムクェ村最大のスーパー「ツムクェ・ミニマーケット」。周囲に村人が集まり交流の場になる

ツムクェ村最大のスーパー「ツムクェ・ミニマーケット」。周囲に村人が集まり交流の場になる © 岡部一明

クリック音(舌打ち音)が入るサン語

 彼らの会話には「トン」とか「チャチャ」とかのコイサン族独特の舌打ち音(吸着音、クリック音)が入る。だから彼らの母語で話しているな、とわかる。一般の黒人の会話では聞かない。独自の文化が依然として継承されていることは素晴らしい。

 300N(2700円)ドルほど出して車をチャーターした方がいいんじゃないか、とキャオ君は言う。この通り、車はほとんど来ないから、向こうに行けてもきょうのうちに帰れるかどうかわからない。ビレッジにはキャンプ場もあり、テントや寝袋があれば泊まれるが、君はもっていないだろう、と。彼自身もこれからビレッジに行くが、帰るのは明日になる。ハイク待合所で待っていた人たちも皆親戚の家に泊まりに行くのだろう、とのことだ。

 下手に道路を歩いていくと、ここから北の道にはビッグ・ファイブ(ライオン、ヒョウ、ゾウ、サイ、スイギュウ)も出るから、あぶないとも脅かされた。ここ数年で、象に殺された村人が2人居るという。

 しばらくして、今度は、私のおじさんのところに行こう、と近くの飲み屋らしいところに連れて行かれる。やはりそこで私は座らされ、キャオ君らは友人たちとだべっている。鉄格子のついたカウンターの向こうに店員が居てビールなどを出す仕組み。さすがに昼間からの大酒飲みは居ないようで、もっぱら店内にあるパチンコのようなギャンブル・マシンで数人が遊んでいる。

 さて、次はどこだ。キャオ君はまたさっきの店の近くに友人を見つけたようで、そこで数人との世間話を始めた。彼の通勤時間はこうやって、のんびりと村の付き合いの中で過ぎて行くのだ。話しているうちに、だれがあっちの方に車で行くらしい、などの情報もわかるようだ。

サイクリング利用に方針転換

 私も面白いからのんびり付き合っていてまったく構わない。しかし、たまたま自転車に乗った若者がそこのだべりの輪に入ってきた。これをレンタ・バイクできないか、聞いてみた。間に通訳のキャオ君が入ってくれたので話がスムーズに進んだ。

 「いいよ、1日150Nドルだ。」
 「そこを何とか。100Nドルはどうだ。」
 「OK。」

 100Nドル(900円)でもおいしい話だったようだ。今100Nドルくれれば、明日の晩まで貸していい、ということになった。もう午後になっていたので、これから自転車で「ビレッジ」まで23キロ往復するのは難しい。明日、朝早く出てビレッジに行きたいという私の要望に応えてくれた。

サイクリング練習

 早速、試乗サイクリング。きょうのうちにある程度慣れておく必要がある。まだ行っていない村の東の方(ボツワナ国境の方向)に向かって幹線道路(C44)を走り出した。明日行く北方向の道よりは走りやすい。しかし、砂利と砂で、自転車にとって決して走りやすいとは言えない。

 土の道でも、自動車のタイヤにつくられたできるだけ走りやすい筋道を選んで走るというノウハウ。たまに車が来ると、埃がすごいので、風上に退避。休む際も、とげのある路肩の茂みには入らないようにする。タイヤがパンクしたら一貫の終わりだ。

 借りた自転車はマウンテンバイクのようなもの。タイヤの幅が広く丈夫そうだ。その点はいい。ドロップハンドル・細タイヤのツーリング車はだめだろう。

 約8キロ行ったバオバブ・トレイルの分岐点まで行って戻ってきた。体力的には何とか行けそうだ。明日はその3倍の距離の往復。道路状況が不明なのが心配だが、私の通常のサイクリング距離は一日100キロだ。何とか行けるだろうと判断した。

日本には絶対ない警告標識。試乗でこんな道(C44号線)をボツワナ方向へ

日本には絶対ない警告標識。試乗でこんな道(C44号線)をボツワナ方向へ © 岡部一明

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