「地球号の危機ニュースレター」537号(2025年6月号)を発行しました。

〈アフリカの旅7〉ツムクェでの暮らしが始まる

村一番のお店の前には多くの村人たちが集まる © 岡部一明

村一番のお店の前には多くの村人たちが集まる © 岡部一明

サン族の自治体職員

 私の入った安宿は、村の公営ゲストハウスだ。自治体事務所は近いので、責任者のリコロ氏がたまには宿の見回りに来る。

 「どうだね、部屋は。」

 「とてもいいですよ、水以外はね。」とニヤリ。

  サン族だと名乗ったリコロ氏は、気のいいおじさんで、憎めない。2度ほど水回りを点検していったが、まだ直せないでいる。「明日には」と言ってその都度帰って行った。直さないなら、宿代を払わないぞ、と脅かしてもいいのだが、それは私の趣味ではない。

 「ここは、サン族の首都。さすればあなたはサン族の大統領だね。」

 「いやあ、それほどでも」と相好を崩すリコロ氏に、それほど言われるなら頑張らにゃというモチベーション上昇を期待する。

 サン族は一般に貧しく、自治体職員になっている人は少ない。リコロ氏は例外のようで、しかも、珍しく英語を話す人だった。

 水が出ない、出ないとうるさいな、この日本からの客。と思っているかも知れない。でもね、宿で水が出ない、というのは相当大きな問題なんだよ。(いや、本当にそうか、私の方が間違っているかも知れない、という思いも出てきたのが怖い。)

ツムクェ公営ゲストハウスは、中心となる十字路から南に下る幹線路?上にある。この街道沿いにはオチョソンデュパ州政府支所、警察署、裁判所など公共機関事務所が多い。村きってのリゾートホテル、ツムクェ・カウトリー・ロッジもこの先を右に入ったところにある。我らがツムクェ公営ゲストハウスは、写真の右側、巨大なアリ塚の道を入って行った先だ。(しかし、この「幹線路」を悠々と歩くヤギたちには感心する。牧童が居ない。ヤギたちだけで所定のコースを粛々と歩いている。車もほとんど来ない。来てもちゃんとよけて、なお所定のコースを粛々と歩き続けるのに尊敬の念を禁じ得ない。)© 岡部一明

ツムクェ公営ゲストハウスは、中心となる十字路から南に下る幹線路?上にある。この街道沿いにはオチョソンデュパ州政府支所、警察署、裁判所など公共機関事務所が多い。村きってのリゾートホテル、ツムクェ・カウトリー・ロッジもこの先を右に入ったところにある。我らがツムクェ公営ゲストハウスは、写真の右側、巨大なアリ塚の道を入って行った先だ。(しかし、この「幹線路」を悠々と歩くヤギたちには感心する。牧童が居ない。ヤギたちだけで所定のコースを粛々と歩いている。車もほとんど来ない。来てもちゃんとよけて、なお所定のコースを粛々と歩き続けるのに尊敬の念を禁じ得ない。)© 岡部一明

ツムクェ公営ゲストハウスを訪れる牛。これも牧童なしで勝手に入ってくる。ゲストハウス裏に常に廃水の水溜りができているのでそれを飲みに来るのだ。蚊の発生源ともなっているここの溜り水は、「濁り水」というより「腐った水」だ。それを飲んで牛たちが腹も壊さないどころか、それを使って美味な精肉を生成して下さるというのは何とも不思議な生命現象だ © 岡部一明

ツムクェ公営ゲストハウスを訪れる牛。これも牧童なしで勝手に入ってくる。ゲストハウス裏に常に廃水の水溜りができているのでそれを飲みに来るのだ。蚊の発生源ともなっているここの溜り水は、「濁り水」というより「腐った水」だ。それを飲んで牛たちが腹も壊さないどころか、それを使って美味な精肉を生成して下さるというのは何とも不思議な生命現象だ © 岡部一明

普段はゲストハウスのゲートは閉じられている(写真)。しかし、時たま開け放ったままになっており、その時牛が入ってくるようだ。決して牛たちの水場を用意しているわけではないとリロコ氏は言う。(私は最初、自治体がゲストハウスの周辺空き地(サバンナ)で牛も飼って収入源にしているかと思った。確かにあり得る話だが、そうではなかった、ということだ)。牛様たちの行幸があった後、ゲートに大きな置き土産があるのを発見(写真中央)。恐れ多くもここはゲストハウスの正面ゲートなのだが。ゲストハウス敷地内もあちこち牛糞が散らばる © 岡部一明

普段はゲストハウスのゲートは閉じられている(写真)。しかし、時たま開け放ったままになっており、その時牛が入ってくるようだ。決して牛たちの水場を用意しているわけではないとリロコ氏は言う。(私は最初、自治体がゲストハウスの周辺空き地(サバンナ)で牛も飼って収入源にしているかと思った。確かにあり得る話だが、そうではなかった、ということだ)。牛様たちの行幸があった後、ゲートに大きな置き土産があるのを発見(写真中央)。恐れ多くもここはゲストハウスの正面ゲートなのだが。ゲストハウス敷地内もあちこち牛糞が散らばる © 岡部一明

1週間後、水が出た

 1週間ほどたってやっと部屋の水が出るようになった。お湯も出る。水回りさえ直れば、私はこの部屋に何の不満もない。ある程度広いし、前述の通りシーツはきれいだし、ツインルームでベッドが2つあるので、布団を二枚分かければ、意外と寒くなるサバンナの夜もあったかい。毎晩ぬくぬくとした眠りが得られる。蚊も、そもそも部屋が発生源から遠いし、1日に2回壁と天井の掃討作戦をすればほぼ居なくなる。よい肩ほぐしになる。キッチンの蚊はどうしようもないが、キッチンがあるだけここはいいのだ。他の上等宿2軒はキッチンがない。瞬殺で料理して蚊に刺されないようにすればよい。そして何より、この環境で11700円・1ヶ月5万円なのだ。満ち足りている。

 また、この宿は、蚊、水回りその他の欠陥が多いので、客が寄り付かない。たまに何人か入るようだが、ほとんど人の気配がない夜の方が多い。もう一つの民間ゲストハウス(Y2Kゲストハウス)は少し高めなのに結構満員になっているのと大違い。ナミビア人でもさすがにこの蚊の大群には恐れをなして寄り付かないのか。

 それで、ゲストハウス全体を結構自分の住み家のように使える。キッチンは共同だが、ほとんど他の客とかちあわない。冷蔵庫も私のもの以外あまりない。勝手気ままに料理し、自分の部屋に運んで食べる。だれにも気兼ねしない。最高じゃないか。

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