「地球号の危機ニュースレター」537号(2025年6月号)を発行しました。

〈アフリカの旅7〉ツムクェでの暮らしが始まる

村一番のお店の前には多くの村人たちが集まる © 岡部一明

村一番のお店の前には多くの村人たちが集まる © 岡部一明

星影、月影

 砂漠地帯の空は、夜になると恐ろしいまでに凄みを増す。全天に光り輝くこの無数の数珠玉は何だ。そして天の川。とりわけ南半球の銀河は濃く、太い。白い墨汁を流したように空の片側から片側に雲が延びる。

 私たちはこれを銀河系宇宙だと知っているが、太古よりここで生きてきた人々はこれを何だと思っていたのか。いろいろ神話の世界をこれに当てはめても、追いつかないだろう。それよりはるかに奥深い現実の宇宙空間が、私の視野全体に広がっている。

 音もせず、つまり荘厳な音楽をかなでることなく、しかし、爆音に近い宇宙のバックグランド・ミュージックを響かせ、人類が経験する最大規模の空間芸術がそこに展開する。

 これを取り込みたい。この輝きなら写真に撮れるのではないか、と、スマホカメラをクリックしたが、何も写っていなかった。

 そして満月になったらなったで、これがまた明るい。街灯のないサバンナを平気で歩ける。月が街灯だ。文明諸国にある街灯と同じくらいに月が明るい。はっきりと影がうつる。

 しかし歩くとすぐ違和感に襲われる。文明世界の灯下では、移動につれ影の向きが変わる。光の強さも、光源からの遠近で、弱くなり、また明るくなり。しかし、ここでは常に同じだ。どこまで歩いても同じ光源から同じ強さの光が同じ向きに足元を照らす。空間自体に光が普遍的に備わっている。自分の影も常に同じ方向に生じ、私の行くべき方角を案内してくれる。

果物がない

 ツムクェには少なくとも4軒の食料品店があり、パンから、乳製品、缶詰まで一応、食べていけるモノが手に入る。しかし、野菜・果物類は玉ねぎしかない。ジャガイモもあるが、野菜というより穀物に近いだろう。果物は皆無。何もないのだ。一応熱帯だからパイナップルやバナナがあるかと思ったが何もない。乾燥地帯だからだ。乾燥地帯ならオレンジくらいあってもよさそうだが、それもない。

 つまり、生で食えるビタミンC源が何もない。実は来てすぐ2日間くらい店にトマトがあった。それを食べていたのだが、2日たったら売り切れ、それ以後まったく入らない。あの時のトマトはとても貴重品だったのだ、と気付いたが後の祭り。

 来る前にツムクェについていろいろ調べ、一応お店らしきものがあることは確認していた。缶類やドリンク類が動画に映っていた。最低限でも缶詰で食いつないでいけるだろう。そう判断して来た。確かに食いつないでいける。乾物以外にも、玉ねぎやジャガイモや、ロングライフの牛乳やジュース、地元産らしい冷凍肉、酸乳(コカ・コーラの空きボトルに入っている)、ソーセージ、卵、パン、ピーナッツ豆などもあった。しかし果物がない。野菜も玉ねぎだけ。これがこたえる。

 毎日玉ねぎを買ってきて、これを即席ラーメンやマカロニ汁にたくさん入れて食べる。何しろ生鮮類はこれだけだ。玉ねぎは残念ながらナマでは食えず、煮たり、電子レンジでチンしたりする以外ない(電子レンジはある)。温めてしまっても、野菜なら栄養バランスのたしにはなるだろう。

花粉症メガネが役立つ

 花粉症対策のメガネを持ってきていた。砂嵐が激しいわけでもなく、使う用途はないな、と思っていたが、玉ねぎ切りに非常に役立つ。毎日大量の玉ねぎを切ると目がしみる。花粉対策用メガネでこれが防げる。

 きょうは何か野菜・果物が入ってないか、村に4軒ある店らしい店をまわるのが日課となった。日々の散歩、村の様子見歩きに、明確な実利的目標が加わることになった。くだんのトマトのこともある。毎日2回くらい見て回れば、珍しい入荷品を発見できるかも知れない。

ツムクェには店らしい店が4軒ほどある。その中でもこの「ミニスーパー」は最もモノが多い。店周囲は人が集まる場ともなっている © 岡部一明

ツムクェには店らしい店が4軒ほどある。その中でもこの「ミニスーパー」は最もモノが多い。店周囲は人が集まる場ともなっている © 岡部一明

これは、別の店だが、店舗内の様子。乾物が多い © 岡部一明

これは、別の店だが、店舗内の様子。乾物が多い © 岡部一明

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