「地球号の危機ニュースレター」534号(2024年12月号)を発行しました。

〈アフリカの旅1〉故郷アフリカに帰ってきた

Table Mountain

ナミビアを目指しまずケープタウンに。背景はTable Mountain © 岡部一明

まったく別の音を使う言語

 彼らの言葉にはクリック音(舌打ち音、吸着音)という極めてユニークな音素がある。例えば下記のビデオ参照。声帯から出る声以外に、頻繁に「トントン」とか「チャチャ」という舌打ち音が入るが、これが言葉の一部になっている。世界中に多様な言語があるが、こういう音を使うのは彼らと、その影響を受けた周辺諸民族だけだ。(周辺のバンツー系民族の中ではコーサ語とズールー語にクリック音が入っている。)

 私たちも舌の遊びでこの種の音を出すことはできるが、普通これは言葉としては使われない。世界中の言語が束になってかかっても、それらと根本的に異なる、別の音素をもった言語と言えるだろう。

https://youtu.be/W6WO5XabD-s

https://youtu.be/vnzec0EDa8Y

 おそらく下の方の動画は、日常的には現代社会の中で暮らす若い世代のコイサン族なのだろう。言葉も失われて新しく学んだのではないか。その分、聞き取りやすいが「習った言葉」という感じがする。不思議なもので、砂漠で暮らす半裸の人々を見ると遠い感じがするが、こうして普段はTシャツでも着てその辺を歩いていると思われるような若者を見ると、なおさら私たちに近いように感じられる。

アフリカを出る頃のホモサピエンス

 コイサン族は決して、後の時代にモンゴロイドと混血したわけではない。確かにアフリカ東岸沖マダガスカルには東南アジアからオーストロネシア系の人々の移住があったが、コイサン族の人々はそうした影響を受けていない。むしろ彼らは、モンゴロイドよりずっと古いホモサピエンスで、現生人類の中でも最古の遺伝子をもつ人々であることが人類学的に確認されている。つまり、彼らがもしモンゴロイドに似ているとすれば、それはモンゴロイドが何ほどか彼らの特徴を受け継いできたからかも知れない。

 日本人の起源で百家争鳴だが、こっちの方がよほど知的好奇心を駆り立てられる。6万年前アフリカを出たホモサピエンスは、実はコイサン族のような人たちだったのではないか。それがユーラシア大陸でコーカソイドやモンゴロイドに分化・進化していった。アフリカに残った人々の間でも進化が継続し、現在「黒人」と言われているニグロイドの人々も生まれた。コイサン族は、以後の多様な人類の原型となる人たちだったのではないか。

 彼らの姿がずっと気になっていた。いつか彼らのところに行ってみたい。しかし南部アフリカは遠い。それでずるずる後回しになっていた。が、私の人生も長くはない。今回、ケープタウン片道10万円の切符が手に入ったのを機に、思い切って来ることにした。主要目的地はナミビア。自分のルーツを探す旅だ。

南アフリカのケープタウン

南アフリカのケープタウン。主要目的地はナミビアだが、ケープタウンから入れば安い。喜望峰に近いこの街は、アフリカ大陸のほぼ南端に位置し、近代史上、ヨーロッパからアフリカ大陸を回ってアジアに至る際の中継基地となってきた。写真は北方向、港とテーブル湾を望む。喜望峰はこの背後、南方50キロの地点にある © 岡部一明

テーブルマウンテン

その反対側、南の陸側を見ると、この街の象徴となるテーブルマウンテン(左、1087m)がそびえる。海の近くに1000メートルの崖がそそり立つ景観は特徴的だ。上がテーブルのように平らになっている。右側のとんがった山はライオンズヘッド(669m) © 岡部一明

ケープタウン市役所と市役所前広場グランド・パレード

ケープタウン市役所と市役所前広場グランド・パレード。背景はテーブルマウンテン。よく霧がかかるので、地元の人はこれを「テーブルクロス」と味な言い方をする。広場は、各種集会の場所となるが、普段は屋台も多く出ている。
1990年2月11日、25年間の投獄から解放されたネルソン・マンデラが、市役所正面玄関ポーチで5万の群衆を前に演説した。人種隔離アパルトヘイトの終結(正式には1991年6月)を告げる画期がここで刻まれた © 岡部一明

ネルソン・マンデラの銅像

獄から解放されたばかりのネルソン・マンデラが、市役所正面玄関ポーチで5万の群衆を前に演説。その場所に、群衆に向かって呼びかけるマンデラの銅像が据えられている © 岡部一明

南アフリカ共和国の議会議事堂

南アフリカ共和国の議会議事堂。2022年1月の火事で、修復中だった。南アには3つの首都がある珍しい国。大統領府と行政機関がある東部プレトリア(ヨハネスブルグ近く)は「行政首都」。最高裁判所のある中部の中都市ブルームフォンテーンが「司法首都」、そして議会のある西部ケープタウンが「立法首都」だ。首都は何も一つに限る必要はないわけで、オランダ、スイス、スリランカ、マレーシア、チリ、ボリビア、タンザニアなど首都機能を2都市に分散している国がいくつかある。3都市に分かれているのは南アだけ © 岡部一明

ディストリクト6博物館

ディストリクト6博物館。ディストリクト6地区は、アパルトヘイト下の1966年、ここを白人地区にするとの決定が下され、以後住んでいた黒人、カラードが強制退去させられた。人種差別の典型的な事例とされ、その苦しみを後世に伝えるため、同地区内にこの博物館が建設された © 岡部一明

ディストリクト6博物館の中の様子

ディストリクト6博物館の中の様子 © 岡部一明

港付近

港付近はウォーターフロント開発が行われ、観光客でにぎわっている © 岡部一明

 

 

岡部一明

『地球号の危機ニュースレター』
No.529(2024年7月号)

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