「地球号の危機ニュースレター」532号(2024年10月号)を発行しました。

どんぶらこ取材こぼれ話 第71回 どうして車はへこんだか?〜そして嫌がらせと威嚇とズラシの作用〜

私服警察の男性群によって圧迫される女性 ©山秋真

私服警察の男性群によって圧迫される女性 ©山秋真

山秋 真

 この11月15日、山口県上関町の祝島に暮らす2人が本州の柳井市へ向かいました。それぞれ上関町議会の議員と上関町祝島の自治会長を数年前までつとめていた男性です。西哲夫・上関町長が警察へ被害届を出したから「柳井署まで来てもらえますか」と言われ、2人で出かけたということでした。

 警察につくと別々の部屋で事情聴取を受け、それぞれ3時間半と4時間かかったとか。どちらもなかなか長時間となりました。祝島からだと1日仕事です。

 なぜ西町長は被害届を出したのでしょうか? ここで経緯を確認しておきます。  核のゴミの中間貯蔵施設(以下、中間貯蔵施設)をつくるための立地可能性調査(以下、可能性調査)について、8月18日の臨時町議会で受けいれを表明した西町長は、臨時議会の閉会後に別室を用意して20分ほど、詰めかけた取材者の質問に応じました。あるテレビ局の男性がその場を取りしきり、冒頭いくつかまとめて質問してから「幹事社からは以上です」といって会場へ質問を開いたのですが、その「幹事社」からの質問の最後は、次のようなものでした。


−−−− 朝、「反対派」の方々から取り囲まれました。その時はどういうお気持ちになりましたでしょうか。

町長:彼らの気持ちもわからんでもないが、もう少し節度がある反対運動をしてもらいたい。車に閉じこめて、車は揺らしあげる、車をバッコンバッコン。僕は、車が傷んじょるんじゃないかと非常に心配しているんだけどね。反対される方は反対される方で気持ちはわからんでもないが、もう少し節度がある反対活動をするべきだと私は思います。

−−−− 警察も介入する事態になってしまいました。そのことについてはどう思いますか。

町長:これはやむを得んでしょう。あくまでも、公人を車に閉じこめる、そういうことは、日本でまかり通るのか。当然のことをしたと私は思います。

−−−− 車とか傷ついているかもしれません。そのことについて、どう思いますか。

町長:傷ついていたら、責任者に請求するしかないですね。


 その直後わたしが上関町役場から出ると、朝のうちは夏の陽が照って晴れわたっていた空からザアザアと雨が降っていました。傘をひろげつつ歩きだすと西町長の車が駐まっています。

 その日の朝、西町長の車に集まった人びとは、どう見ても丸腰でした。わたしの見るかぎりは町内や周辺地域に暮らす住民が、「可能性調査を受け入れないで」と非暴力で訴えていたのです。

 あの状況で、いったい車に傷はつくものでしょうか?

 素朴な疑問から、車体をぐるり見てみます。どこにも傷は確認できません。しいて言えば、右側の後ろのドアが少しへこんでいました。仮に、それがその日の朝できたものであるとするなら、あの状況でどうしたら、それが生じるでしょうか。

 その場にいた丸腰の人びとは、町に呼ばれた警察が介入と同時にたてつづけに3回「警告」して「部隊を突入」させたため、屈強な私服男性の一団に押されてもみくちゃにされていました。「痛い」「押さないで」という声があちこちから聞こえ、素敵な日避け帽をかぶった女性が多かったのに帽子の見当たらなくなった人もいたようです。

 あの状況で車がへこんだならば、警察の一団が住民の身体を圧迫した際に、はからずも車体をへこませた可能性は否めないのではないでしょうか。警察の男性は、機器かなにか硬質のものを衣類のポケットなどに入れていたようですし、重厚なリュックあるいは肩掛けカバンや長い一脚つきカメラを携えてもいたからです。
 また、仮に丸腰の住民によって車がへこんだのなら、住民自身の身体も、車がへこむほどの強さで圧迫されたということではないでしょうか。つまり不可抗力によって、意図に反して車がへこむ結果となった可能性もあるかもしれません。

 その後、車のへこみの件で西町長が被害届を9月1日付で出し、山口県警柳井署は器物破損の疑いで捜査をはじめたと、9月中旬に報じられていました。こうして11月15日、祝島から2人の人が柳井署へと足を運ぶこととなったのです。

 言うまでもなく町長の車も大切です。ただ、かりにも自治体の首長たる者ならば、住民の身体についても同様に、いえ、むしろそれ以上に、大切にして−−−−この場合なら真っ先に案じて−−−−しかるべきだったように思われてなりません。それを欠いた対応は、首長による町民への嫌がらせや威嚇そして中間貯蔵施設という本来の問題からの論点ズラシとして作用している。現状がそのように見えてしまうのは、わたしだけでしょうか。

*本稿は一般財団法人上野千鶴子基金の助成を受けた取材活動を土台に執筆しています。

山秋 真

『地球号の危機ニュースレター』
No.522(2023年12月号)