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<講演会報告>「わが国と世界の人口動向」

最終更新日 2013年 6月 13日 11409 views

 image12月6日におこなわれた石井太さんの講演内容の一部を抜粋して報告します。

 

日本の将来推計人口

 私どもの研究所では、総務省統計局の国勢調査(5年に1回)の集計結果を出発台にして将来人口の推計を行っています。最新の24年1月の将来推計人口は、平成22年国勢調査の結果に基づいて推計されたものです。公的な将来推計人口としては日本で唯一のもので、この結果は年金などの社会保障や、いろいろな政策の分野で活用されます。

 将来人口は人口変動要因である全国の出生・死亡・国際人口移動に仮定を設け、将来の人口規模や年齢構成などについて「コーホート要因法」という方法を用いて推計します。その際の仮定の設定には、実績統計に基づく人口統計学的な「投影手法」を用います。日本の人口推移を長期的期間で見ますと、特に明治以降に急激な勢いで増加しています。将来推計の結果では、これまでの推移とは一転して急激に減少していく見込みで、何十年後かに今を振り返ると、我々はもしかすると日本の歴史上最も人口が多い時代に住んでいたということになるかもしれません。

 

 人口の年齢構成の変化を見るには人口ピラミッドで見ると解かりやすい。人口ピラミッドは、年齢別の人口を、左を男性、右を女性にとって説明したものです。1960年の日本の人口ピラミッドは裾が広く、まさにピラミッドのような安定した形をしています。25年後の1985年には出生率が低くなってきて下の方がやや狭まりますが、まだ安定した形です。

 直近(2010年)では、かなり老年人口の領域が増え、だいぶ高齢化が進んでいることが人口ピラミッドからもわかります。50年後(2060年)には10人に4人が高齢者となり、下に向かって細くなる、いわゆる逆ピラミッド型に近い人口構成に変わる。これが将来推計で見通される人口の年齢構成の変化であり、わが国の将来の人口の姿ということになります。

p14_わが国の人口ピラミッド(1985年)p15_わが国の人口ピラミッド(2010年)p17_わが国の人口ピラミッド(2060年)

 

人口学

 人口学とは人口を科学・研究する学問と言うことです。出生や死亡のレベルで人口ピラミットの形がどう変わるのかというように、人口変数やその変数間の相互依存関係を人口統計に基づいて分析することを「形式人口学(人口学的な方法論)」といい、これが人口学のコアとしてあります。ただし、人口は人口の変数だけで動くものではなく、人口の外にある経済や社会、環境など、様々な問題と人口とが密接に関係して、それも相互に依存しています。そういった人口変数とその外部の関係ともさらに広げていく研究分野を「実体人口学」と言います。実体を考える際には、社会学・経済学・生物学などの様々なバックグラウンドを持つ人と学際的な研究を行うことが人口学の学問形態です。

 出生や死亡の数は人口の規模や年齢構成によっても当然影響を受けます。推計に際して、人口水準をより純粋に求めるためには、いわゆる人口学的な率(人口動態率)である出生率や死亡率を取り出してくる必要があり、これをどのように取り出すかが人口学では重要です。逆に出生率・死亡率が決まれば、それが表す人口の形はどうなるかを考えることができ、人口学的な出生や死亡の水準を人口という形に翻訳する行為が人口の推計であると言えます。

 将来推計の手法に用いられる考え方が人口投影です。人口投影とは、人口の趨勢や人口を動かす出生・死亡・移動などの趨勢について一定の仮定を設定して、将来の人口がどのようになるかを計算することです。総人口の趨勢をグラフにプロットすると、これに何かの数学的な関数を当てはめることも可能です。

 例えば、人口がほぼ一定の増加率で進んできた時代に注目しますと、その勢いで伸びていくという仮定を置けば、指数関数を当てはめてそこから先の趨勢が投影されるということです。単純に人口の趨勢に何かの関数を当てはめても、将来推計人口推計結果の様相とはだいぶ異なります。人口は総数の動きだけで決るものではなく、出生・死亡・移動によって年齢の構成もだいぶ変わりますので、それを考慮して人口推計を行わないと実際の人口の動きはトレースできません。

 

コーホート要因法

 ある同じ年に生まれた人たちの集団のことを同じ出生コーホートと呼びます。人口投影に用いるコーホート要因法とは、コーホート毎にある集団をそのまま追跡して、出生・死亡・移動によってどういう風に人口が変化するかということを見ながら将来人口を投影する方法です。

 様々な施策や計画に使われる数字ですので、客観性・中立性を確保する観点から、出生・死亡・移動それぞれの仮定について、過去から現在に至るまでに観察された人口学データの傾向や趨勢を将来に向けて投影します。このためには人口学的データの傾向がどうなっているかを分析して、それをモデル化して将来に投影することが必要です。モデル化というと一見してマクロ的な見方に見えますが、もうちょっとミクロ的な、当時のライフコースの変化を見極めるということに大きく関係しています。

 ある年の人口があったとき、翌年の人口をどのように求めるか。まず、とあるコーホートに着目すると、X歳の人は翌年にはX+1歳になります。また、翌年までにその人たちのうち、どのぐらいの人数が亡くなるか(生き残るか)は死亡動向から導き出されますし、国際移動人口の動向も同様に求まりますので、コーホートの人口からそれぞれを差し引きます。このように現在すでに生まれている人たちは、コーホート毎に死亡と移動の動向を反映させればX+1歳の人数を求めることができます。

 また、翌年に生まれるであろう0歳の人口は、現在の15歳~49歳の女性から生まれるという前提で考え、その人口から出生率や出生の成否によって導き出されます。こういった手順を使いながら逐次的に積み重ねて将来の人口を作っていくのがコーホート要因法です。

 

推計の意義

 人口学的な投影の考え方は、将来人口を予言・予測することが一義的な目的ではなく、傾向や趨勢がこのまま続くとすればどういう人口の形になるかを映し出すためのものです。将来を当てるつもりがなければ意味がないということではなく、仮に今の状況が続けば将来はこうなるということを手にして見ることができるという点で有益です。導き出された将来像が望ましくなければ、違う方向に変えるための材料として利用できるからです。

 不確実性を考慮して、私どもの推計では出生に高・中・低、死亡に高・中・低と、それぞれ三通りずつ、計九通りの推計結果を出しています。前提が変わると将来像もこれだけ変わるということを示すためです。一定の期間が経過して新たな傾向が見えてくれば投影の結果は変わりますから、定期的に見直すことが本質的に必要で、且つ、それを政策などへ利用したものに関しても当然ながら見直しや対応の変更が必要になります。これが人口投影の持つ性格です。

 

人口転換

 人口増加のメカニズムを説明するものとして「人口転換」という考え方があります。単純に言うと多産多死から少産少死に至る一連の過程のことです。まず前近代的社会では、死亡率も出生率も高いので人口の増加率自体はさほど高くありません。次に近代化が始まると、先に死亡率が低下を始めて出生率が高いまま残るので、この差が人口の増加率になり、人口増加率が高い時代を迎えます。

その後出生率も低下しはじめ、いずれ死亡率の低下に追いつくと少産少死の状況となり、人口増加が再び停止します。この一連の過程の中で一時的に死亡率が低い状況が先行するために人口増加率が高いところができるというのが人口転換の原理です。この理論について現在は批判的な意見もたくさんありますが、長期的期間では人口が多産多死から少産少死に移行するというような概念は現在でも有意義だと考えられています。

 

日本の少子化

p54_合計特殊出生率および出生数の年次推移 人口動態統計でいう出生率とは、15歳~49歳までの女性の年齢出生率を合計したものです。これを合計出生率といいます。また、長期的に人口が増加も減少もしないで維持できるような出生率の水準のことを人口置換水準といいますが、だいたい近年の日本では概ね2.1という数値です。

 戦後第一次ベビーブーム(1940年代後半)のときには出生率・出生数ともに高かったのですが、そこから急速に出生率が低下しました。出生率が低下し続け、とうとう人口置換水準を下回る(人口転換の出生分極点化)ということが1950年代後半に起こりました。その後しばらく出生率は2ぐらいの水準でしたが、1970年代の後半あたりからさらにその出生率が下がるという状況が続きました。いわゆる少子化とは出生率が人口置換水準を下回ったままで推移し続けることですので、わが国は1970年後半から少子化の状態にあるということです。

 将来推計では日本の少子化がどうして起きたのかについても、人口学的な観点からメカニズムを分析しています。翌年の出生水準を求めるときにもコーホートごとに趨勢を分析してモデル化します。ある年に生まれた女性の集団をずっと観察してその合計値を出すわけで、その集団の女性が一生涯に生む平均の子どもの数がコーホートの合計特殊出生率になります。

 要するにそれぞれの世代ごとの女性が平均して何人お子さんを生むかということです。基本的にはどれぐらいの女性が結婚して、結婚した夫婦がどれぐらいのお子さんを持つか、更に離別・死別・再婚の可能性を加味して、だいたい三つのファクターに分けて分析しています。

 それぞれのファクターが今どういうふうに動いているのかを見ながら、なぜ少子化が起きてきたのかを見てみます。いわゆる婚外子の割合は3%以下なので、日本では基本的に結婚の中で出生が起きている割合が非常に高いと言えます。少子化が始まった1975年ぐらいから非常に平均初婚年齢が上昇してきており、いわゆる晩婚化が起きています。晩婚化してもその後でみんなが結婚すれば、未婚者の割合は増えないはずですが、単に晩婚化が増えただけではなく非婚化が増えています。

 最終的な夫婦の子どもの数に関しては1970年代以降もだいたい二人ぐらいで安定していましたが、2000年代に入って減り始めています。ですから、最初は結婚行動変化で少子化が起きたのですが、近年ではカップルの子ども数も減ってきているという傾向です。人口置換水準は2.1ですので、出生率が1.3ということは水準の三分の二ぐらいの指標でしかなく、次の世代には三分の二でしか置き換わっていかないということを意味します。出生率は一定でも出生数は今後ドンドン減少するということです。

 

寿命の長期的動向

p68_平均寿命の推移 人口転換の中で、長期的には死亡率の低下傾向が現れています。2011年の日本の平均寿命は男性79.44歳、女性84.9歳です。先進諸国は総じて高齢化が進んでいますが、日本の場合は寿命の伸びを示す傾きが非常に急で、第二次大戦後に先進諸国に追いつき、追い抜き、更に伸び続けています。

 人口転換における死亡率の転換メカニズムを説明するものとして疫学的転換という理論があります。最初は伝染病や飢餓の時代があり、伝染病が後退して死亡率が低下し、その後退行性疾患等が多くなる時代が来るという三段階で転換が起きるというものです。アメリカの死亡研究者ウィルモスのトリプルR理論では、死亡率を改善させるパターンを一般的に説明しています。その時の死者の多くが特定の死因で死んでいることを人々がまず認識し、その死因をターゲットとして対応し、死亡率を低下させるというものです。人類が死亡を低下させる・遅らせる営みを続けたことで寿命が継続的に伸びきたとしています。 

 

人口ボーナス、人口オーナス

p79_世界の従属人口指数の推移と見通し(全世界、先進諸国、発展途上国) 人口転換のプロセスが進むときに、年齢構成が社会に与える負荷のようなものを示す従属人口指数という考え方があり、測定されています。年少人口と老年人口の和を生産年齢人口で割ったもので、基本的生産に与せず従属している世代の割合を計算したものです。

 社会の中で従属人口の割合が少なければ、生産に与する人口が多いので経済に対していい影響を与える。この時期を「人口ボーナス」と呼び、一方、人口ボーナスの時期が終わった後には老年の従属人口指数が増えてその人口に対して負荷が多くなるので、これを「人口オーナス(負荷)」と呼びます。

 人口転換のプロセスでは、最初に若年の従属人口が多く、次にそれが生産年齢人口に移行し、最後に老年の従属人口に移行してゆくということで、従属人口指数の変遷でたどると一般的には多→少→多というU字型のカーブを描くことになります。世界の地域や国ごとに、ボーナスとオーナスが来る時期が異なり、到来のタイミングの違いが国際社会の中でのバランスに大きく影響すると考えられています。日本は既に人口ボーナスの時期を過ぎて負荷が多くなっています。

 

人口モメンタム

p88_出生率が人口置換水準となった場合の人口見通し 日本の少子化は30年以上続いており、人口置換水準を30年以上も下回っているのになぜ日本の人口はこれまで増えてきたのかという疑問があります。こういったことを説明する概念の一つが「人口モメンタム」です。過去に高い出生率を継続して経験してきた人口は、そのまま人口を増やそうとする慣性のような性質を人口の構造や年齢構造の中に持っており、こういった慣性がどれぐらい続くかを測るものです。

 1985年の人口モメンタムは1より大きい数字で、つまり人口を増やそうとする慣性が人口の中に備わっていました。出生率が低い状態が続いても、人口を増やそうとする慣性があったために人口が減らないで来たというメカニズムです。2010年の現在は少子化が続いたせいで人口が減るという慣性(人口モメンタムが1を切る)が人口の構造の中に根付いてしまっている状況です。

 日本は減少モメンタムの時代に入っており、人口減少は避けられませんので、人口減少を所与のものとした考え方が必要であろうと思われます。必ずしも出生率の向上に与しなくても、子どもを育てやすい環境を作るのは望ましいことだと考えられます。

 わが国、あるいは世界の人口が将来どのような姿になっていくのかは、これからの我々の行動・選択に関わっており、そのための材料として私どもの将来推計を活用して頂ければと思います。(まとめ・花岡英治)

 

講 演:「わが国と世界の人口動向」
講 師: 石井太さん(国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部長)
開催日: 2012年12月6日(木) 
会 場: 大竹財団会議室

 

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