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<講演会報告>「原子力規制委の断層調査をどう評価すればよいか」

最終更新日 2013年 6月 13日 11231 views

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 2月16日におこなわれた島村英紀さんの講演内容の一部を抜粋して報告します。

 

 現在、原子力規制委員会が原発再稼動の可否を判断する一環として断層調査を行っていることについて、既に科学の領域を超えて政治の問題に入っているように思えます。ただ、地球物理学者、地震学者としての立場から見た場合、原発立地地域に留まらない遥かに大きなスケールの海溝型地震の可能性があることや、日本中いつどこで発生してもおかしくない直下型地震を予測することは殆ど不可能であることをまず指摘しておきたいと思います。このような前提も含めて規制委員会が今後どのようなスタンスで判断を下すかは不明です。活断層に注意を払うことは必要ですが、立地地域周辺の活断層に限定して原発の安全性を議論することは、実際の危険性を矮小化することになり、恐ろしいことです。

 

海溝型地震と直下型地震

 日本は大きなプレートが四つもぶつかっているところで、大地震が起きるのは日本がそういうところにあるからです。日本列島は糸魚川静岡構造線を境に東北及び北海道が北米プレートに乗り、そこから西南日本がユーラシアプレートに乗って分かれています。東北日本を乗せた北米プレートは日本海溝で太平洋プレートに接し、太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込んでいます。太平洋プレートは一年間に数センチの速さで沈みながら北米プレートも引きずり込むので、ここに大きな歪みがたまります。これが耐え切れなくなると、ある時にプレートが突然飛び上がって大地震になります。これを海溝型地震といい、一昨年の3・11東日本大地震や三陸沖地震、宝永地震などはこのパターンで起きています。海溝型地震が起きた翌日からプレートが引きずり込まれて歪みがたまるサイクルが再び始まり、これは少なくとも数千万年は続いていて、これからも続きます。サイクルは普通80年から150年くらいです。発生場所が特定の範囲に絞られることや発生サイクルといった、パターンがある地震だと言えます。

 一方、直下型地震はプレート同士の衝突によって生じた歪みがプレート上のどこかで開放されるものです。海溝型地震はマグニチュード8という大きなクラスで起きますが、直下型地震はせいぜいマグニチュード7.4ぐらいです。マグニチュード表記は対数目盛りなので、8と7とではエネルギーにして30倍違います。その意味で直下型地震はエネルギーとしては海溝型地震よりも小さいのですが、人が住む場所の直下で起きるがゆえに大被害を出すことがあります。1995年の阪神淡路大震災は言わば淡路島と神戸の直下で起きたもので、6400人以上の方が亡くなりました。直下で起きることと、いつどこで起きるか判らない始末の悪さがあります。

 

あっても見えない活断層

 地下で震源断層が滑ることによって起きるのが地震です。1940年代にはまだ地震とは何かがわかっていませんでした。「震源断層が浅く、たまたま地上に割れ目が見えるもの」が活断層の定義です。地上が堆積物で覆われていなければ、地表が直接割れてそこに断層風の地形が見えることがあり、それを活断層といいます。わかっている活断層は約2000ありますが、わかっていないものは6000以上あると言われます。わかっていないところは活断層が無いのではなく、例えば関東地方の地下には関東ローム層があって、3キロ以上の比較的やわらかい泥が詰まっていて活断層があっても見えない。そこに地震が起きないのではなく、起きる可能性は同じだと思います。隅田川の河口で1855年に安政の江戸地震が起きて一万人の方が亡くなりましたが、隅田川の河口の周囲を見回しても活断層らしきものは見えません。4キロ下には断層があるはずですが調べる方法がありません。

 世界には活断層がほとんど無い国もあるなか、日本は特別に活断層が多い場所です。これは日本列島の成り立ちと密接に関係します。元々ユーラシア大陸の東に貼り付いた一部だったところにひび割れが走って日本海ができたことによって日本列島が誕生しました。それが2000万年前ですが、そこから時間が経って日本海の真ん中が急に膨らんだ時期に日本列島が「逆くの字」に曲がりました。のみならずプレートが運んできた珊瑚礁や島などがほうぼうからくっついたことで、結果的に日本列島はとても複雑な地質になっています。例えば伊豆半島は約60万年前に日本列島に最後にくっついた島です。そうしたモザイク状の地質の境が「活断層」になりますので、日本に活断層が多いのです。

 

活断層をもとにした予測の曖昧さ

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 地面に溝を掘って地層を調べるトレンチ法は目下のところ活断層を最もきちんと調べる方法です。とある断層のさらに下層を掘り進めて以前の断層が見つかれば複数回の活動歴があったことになります。この活動歴の発生間隔を基にして次回の地震の時期を見積もるのが活断層に注目する方法です。しかしこの方法では活動歴が一回しかわからない断層では次にいつ起こるのかがわからない。また発生間隔は調べれば調べるほど等間隔ではありませんし、非常に曖昧なものです。地震の活動歴をもとにして次の地震の時期を一応計算することはできます。例えばあと700年で起きるとか。ところがそれには必ず曖昧さあり、繰り返しが短い活断層でもプラス・マイナス合計で200年の幅の曖昧さがあります。繰り返しが長い活断層ではプラス・マイナス1万年ということもあり得ます。

 また、活断層は時代によって活発化することがあります。例えば北伊豆断層帯は3・11以後、地震計が感じるようなごく小さい地震が70倍にもなっています。全部ではありませんが、3・11以後に活断層そのものが活発に動くようになったというところは随分あって、そういった意味で活断層が一定の速さで活動するというようなことがわからなくなった、実は違っているのではないかと最近言われ始めています。だとすると活断層をアテにして将来予測してはならないことになります。

 その予測をもとにして個々の我々が将来に備えるということは、ほとんど無駄だとわかります。ただし、原発となると話は別で、放射性廃棄物の管理や放射能の減り方を思えば、たとえ曖昧さがあったとしても危ないものは危ないと言うべきではないか。

 大事なことは、今までに見つかっている活断層だけが直下型地震を起すのではないということです。兵庫県南部地震も含め、それ以降18年間に発生した大地震(鳥取県西部、新潟県中越、新潟県中越沖など)はことごとくノーマークのところで発生しました。活断層に注目しているだけではダメだということです。

 阪神淡路大震災以来、日本の1000箇所に強震計(どんな大きな揺れも捕捉する地震計)を設置しましたが、とある地震では重力加速度(980ガル)の4倍もの加速度が記録されました。直下型地震はそのくらいの大きな加速度があるということが1995年以降になって初めてわかったのです。 

 

甘すぎる原発の設計基準

 これまでの基準では、将来起こりうる最強の地震動は450〜600ガルを想定して原発をつくってきました。しかし柏崎刈羽では1500ガル、岩手宮城内陸地震では4000ガルという数字を記録しました。その意味で基準は甘すぎましたし、この基準は格納容器や圧力容器に課せられただけで、緊急炉心停止装置などの重要装置も含めてその他の装置はこれよりも低い基準で設計されています。

 福島第一原発や浜岡原発をつくりはじめた当時は、地震学の知見も進んでおらず、日本の近くでどういう地震が起こりうるか(例えば南海トラフの危険性など)、直下型地震ではどういう大きな加速度があるのかということを盛り込んでいませんでした。その後30年間で進んだ地震学の知見は原子力にはまだ導入されておらず、あるいは無視され、地震学からいうと60年代前半の知識のままです。

 

活断層調査の落とし穴

 松田時彦氏は過去の地震のマグニチュードと活断層の長さをグラフに表すことで、活断層の長さとマグニチュードとの関係について一つの式を考案しました。それを「松田の式」と言います。グラフ上の点は一見すると必ずしも直線的な関係を示すような分布ではありませんが、断層が長ければ起きる地震のマグニチュードも大きくなるという傾向はあるように見えます。そこで松田氏は最小二乗法という数学的な式を使い、グラフ上に偏在する点を一つの直線として表現しました。直線を引くように最小二乗法を使うことができると、右上がりの線になります。

 断層の長さとマグニチュードとの関係を傾向として明らかにした点は松田氏の業績ですが、直線で表された部分は幅のある非常に曖昧なもので、実際のところ、この関係式で人工的に引かれた直線を元にして、実際の断層の長さから想定されるマグニチュードを算出するというようなことがなされてきました。例えば、断層の長さが10キロのところで実際に発生した地震の大きさを見ると、マグニチュード6.7から7.4ぐらいまで違うデータがあります。これはエネルギーではほとんど30倍の違いがある幅です。そうした偏在を無視して、人工的に引かれた直線だけに注目してしまうと、本来は幅のあるものが、マグニチュードの大きさを限定されてしまいます。つまり問題は、もし活断層の長さがわかれば、起こる地震のマグニチュードが計算できてしまうことです。原発を造る側は、「松田の式」を用いて、活断層の長さを式に当てはめて求めたマグニチュードが6.5を越えなければ原発を造ってもよろしいとしています。これではエネルギーの幅で10倍から30倍の開きがあるマグニチュードの数字を値切ることになってしまいますし、場合によっては値切ったと私は思います。この直線が一人歩きしているのが、実は原発を造る前の安全調査や設計基準になっています。

 かつて活断層カッターと呼ばれた有名な人がいて、原発立地候補地に個々のつながりが疑われる複数の断層があったとき、それぞれをばらばらに評価して断層の長さを値切り、その上で松田の式に数字を代入して求めたマグニチュードが6.3に収まるとして原発立地のお墨付きを与えてきた、というのが今までの日本のやり方でした。

 

地滑りか活断層か?

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 大飯原発の下には破砕帯というものがあります。破砕帯とは地震を起したかどうかわからないけれども活断層に非常に見かけが良く似ているものを言います。活断層はあくまで地震を起こしたことがわかっているものです。今回、規制委員会が大飯原発の地盤でトレンチ法を行ったところ、12、3万年前の地層に破砕帯が発見されましたが、日本人が住み着く前のことで記録がなく、どのぐらいの地震があったのかはわかりません。ある学者はこの破砕帯を地すべりだと言い、またある学者は活断層だと言う。判断の材料はこの現場にしかないので、解釈は分かれています。

 こうしたことを解釈するのは地球物理学の中でも変動地形学と言う分野で扱いますが、実は10人程度と非常に専門家の少ない分野です。原子力規制委員会の今回の調査に加わっている学者の方々はそれなりの学問を持っていますが、結局のところ学問的にいくら論争しても結果が出ない、つまり地滑りか断層かは決着の付かない問題なのです。いずれにしろ大飯原発の下にはこれだけ非常に複雑な破砕帯、あるいは断層が走っていることも確かで、それが地滑りであっても、それだけの地滑りがあったとすれば大きな地震は発生しますし、原発の立地としてはまずいと思います。

 もんじゅ、美浜、敦賀、大飯といった原発銀座で活断層だとわかっているものがいくつかあります。問題は、これら活断層がここまであるのか、それらが互いに繫がっているのかということは学問的に意見がわかれます。実は両方ともきちんとした根拠がないのです。大地震ではそれぞれの活断層を越えて、活断層と思われていない他の断層と連動する可能性が多分にあります。それは起きてみないとわからないというか、起きる前にはわからないと言うべきなのです。学問的には仮にそこを掘ってみてもわからないことで、ほとんど解釈だけの問題ということになります。その意味で活断層は、あればもちろん危ないですが、なければ、あるいは切れていれば安心というものではありません。大飯原発の目と鼻の先に三つの断層があることはわかっていますが、それらが繋がるかどうかはわからない。いま調べる方法はありません。繋がらないとは決して言えないし、必ず繋がるとも言えない。そこが学問的に辛いところです。結局いままでは判らないことだらけの中で活断層が扱われてきたということです。(まとめ・花岡英治)

 

講 演:「原子力規制委の断層調査をどう評価すればよいか」
講 師: 島村英紀さん(地球物理学者、武蔵野学院大学特任教授)
開催日: 2013年2月12日(土)
会 場: 大竹財団会議室

 

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